サービスデザイン/サステナブルデザインの最近のブログ記事

先進国の経済はサービス志向に大きく傾いています。

私たちにご相談いただくお話も、以前は新商品の開発のお話が多かったのですが、ここ最近は新しいサービスの開発のお話が増えてきているように感じています。

20121210.jpg

その背景を理解するのに、ヘンリー・チェスブロウの『オープン・サービス・イノベーション』は参考になります。

オープン・イノベーションの父と呼ばれるヘンリー・チェスブロウはその著書のなかで、現在、先進国の大部分の企業が「コモディティ・トラップ(コモディティ化の罠)」に陥っていると指摘しています。グローバル化したビジネス環境で「製造拠点が世界中の低コスト地域に広がって、価格を下げるコモディティ化のプレッシャー」が企業の競争環境を一段と激しくしていると同時に、インターネットの普及やテクノロジーの進歩などが要因となってますます製品寿命が短くなる傾向が組み合わさることで、企業はコモディティ・トラップにはまってしまうのだというのです。

とうぜん、企業はこのコモディティ・トラップから逃れようとイノベーションの速度を早めようとします。けれど、その様は「スポーツジムにあるトレーニングマシーンのトレッドミル(ランニングマシン)のようなものだ」と著者はいいます。走り続けないと、マシンから脱落してしまうからです。

このようなプレッシャーが、企業の域を超えて、世界中の先進国の経済発展にとって大きな障害となっている。中国やインドが世界経済を牽引し、世界各地でアウトソーシングが増大し、コモディティ化がつづいている現状で、私たちの子孫は高収入を得られるような職に就くことができるのだろうか? コモディティ化された製品を販売するような企業で構成される経済では、社会は繁栄せず、国民の利益や繁栄を台無しにすることになるのではないか。

こうした状況において、成長への解決策をみつけるためのキーとなるのが、サービス分野でのイノベーションにより、企業に大きな競争優位性をもたらす方法の確立であると著者は言っています。

その方法として企業がとるべき戦略が、その著書で解説される「オープン・サービス・イノベーション」です。

複雑で、その解決方法が未知である課題の解決には、専門家だけがクローズドにアイデアを出し合うよりも、様々な視点をもった多様な人びとにオープンに課題解決の場に参加してもらいながら、課題解決の方法を模索していくことが有効だと、最近いろんな場面で実感するようになっています。

昨日の「対話の場のファシリテーションと多様性」でも、そのあたりにすこし触れてみましたが、今回は複雑な社会課題の解決を多様なステークホルダーを巻き込んだ共同デザインの形で進める事例なども紹介しつつ、オープンな場でのイノベーション創出、未来のデザインということについて考えてみようと思います。

企業のみならず、多くの組織がいま経験やインタラクションというものをどのように理解すればよいかについて困惑しているように感じます。

「経験のデザイン」ということが注目されていたりもしますが、経験というのは、これまでのように目に見え手で触れられる製品や、Web、GUIなどをデザインするのとは異なり、目で見え手で触れられるものではありません。また、同じモノ、同じような状況から得られる経験でも、誰が体験したかで異なるような不確実な性質をもっていたりもします。それが従来のようなモノ中心あるいは「このボタンを押すと○○が起こる」というような機能中心に思考するデザインのあり方とは大きく異なるために、そうした思考に慣れてしまった人には、うまく理解できないという側面があるのでしょう。

ただ、そうはいってももはや「経験」は無視できなくなってきました。それが多くの組織における困惑につながっているのではないかと思います。

いま起こっている変化の大きな特徴のひとつは、デザインを行なう上での単位の変化だと僕は考えています。

従来のように個人を単位としてパーソナルな製品を企画・設計するのではなく、コミュニティをひとつの単位としてデザインを行っていくことが求められるようになってきているように感じています。コミュニティは、言い換えるとネットワークでもいいと思います(ただし、生き残りを考えるとネットワークではすこし弱い気もしますが、この問題はまた別途考えることにします)。

イメージしているのは、個々人が商品を購入することが各自の課題のソリューションだった時代から、コミュニティやネットワークに参加するメンバーの間でいっしょに課題を解決する方法を見つけ実行していく参加型経済モデルの時代へのシフトが起きている中での、デザインの単位の変化です。

その流れの中で従来の"人間中心"のデザインも、顧客中心やユーザー中心のデザインではなく、コミュニティ中心のデザインへシフトしていくことになります。

前回の記事(「巨大な豚に口紅を塗ることがUXをデザインすることではない」)では、UXをデザインをするとはどういうことか?をあらためて考えてみました。

そこではUXをデザインをするというのは、あらかじめ特定した商品やサービスのユーザー体験を改善するためにタッチポイントのインターフェイスをデザインしなおすということではなく、特定の商品やサービスに縛られることなく、もっと広い視野に立って、人びとが求める体験を提供できる〈何か〉を根本的に創造するためのデザインであると、新たにUXデザインを定義し直してみました。

言い換えれば、UXをデザインするということは、新しい価値をもったユーザー体験を生み出すことが目的であり、それを可能にするための〈何か〉としての商品やサービスを生み出すこと自体は目的ではないのです。極端な話、商品やサービスが生まれなくても、人びとのつながりが生まれることで新しい体験価値が生まれるのなら、十分にUXをデザインすることに成功したということができます。あくまでデザインの対象は、モノではなくUXであり、この点で従来のデザインの姿勢から大きく頭を切り替えることが必要です。

新しくサービスデザインを行なう上でのむずかしさは、デザインプロジェクトに関わる人たちの多様さをどう1つにまとめるか?ということにあると思います。生きてきた背景も異なれば、専門とする領域も、所属する組織やコミュニティも異なる可能性のある多様な人びとをいかにデザイン過程に参加させ、1つの社会的変革を実現させていくか? そこがサービスデザインを実際に行っていく上で最初に克服すべき課題であると思っています。

その意味でも、サービスデザインのプロセスにおいては、一番はじめのチーム作りがとても重視されます。今回はそのあたりを考えていくことにします。

カスタマージャーニーマップサービスブループリントといったサービスデザインで用いられる、サービスを利用する顧客の旅の道程を図式化することで、顧客がどのタッチポイントでどんな体験をし、どんな感情になるのかを把握する方法は、狭義のサービスデザイン分野におさまらず、顧客の体験価値をいかに高め、ブランドへの信頼や愛着などの絆をより強いものにするかというブランディングの視点からも重要性を高めているように思います。

日本にいると、そうした「顧客の旅」を中心に体験価値やブランド価値の向上をはかるアプローチへの注目の高まりもあまり感じにくいのですが、海外で行なわれているイベントの話題などに目を向けると、そうしたアプローチが1つの大きな話題になっているのがわかります。

例えば、3月下旬にニューオリンズで開催されたIA Summit 2012も"Cross Your Channels in Multivariate New Orleans"と題され、ソーシャルメディアや様々なモバイルデバイスの登場でこれまで以上により複数のチャネルにまたがって提供/利用が行なわれるサービスを、いかにデザインするかという視点でのプレゼンテーションが数多く行なわれたようです。

今回は、そのIA Summit 2012で行なわれたプレゼンテーションの中からSlideshare上に公開されているAdaptive Pathのエクスペリエンスデザイナー、Chris Risdonによるプレゼンテーション"IA Summit 2012: Mapping the Experience"をピックアップして、「顧客の旅」という視点からサービスやそれに用いられるツールの情報アーキテクチャーをいかに包括的にデザインしていけばよいかを考えてみることにします。

すこし前に「医療/健康のサービス&エクスペリエンスデザイン事例」という記事で、医療/ヘルスケアの分野でのサービスデザイン、イノベーションの事例を紹介しました。

今回は、医療やヘルスケアの領域以外でも話題となっているビッグデータやインフォグラフィックといったものが、医療やヘルスケアの領域にもどんな変化をもたらしつつあるのかという点を考えていきたいと思います。

1つのモノであっても、それを扱う際のやり方には複数の選択肢があったりします。

針の穴に糸を通すのでも、針に対してこちら側からあちら側に通す人もいるかもしれませんし、針の向こう側から手前に向かって糸を通す人もいるのではないでしょうか。

そして、多くの人が、自分のいつものやり方が普通であって、そうではないやり方を異常であるとか、やりにくい方法であると考えてしまう傾向があります。

例えば、医薬品に関する調査などを行なうと、よくあるプラスチックとアルミでできたシートから薬の錠剤を取り出す場面でも、その取り出し方は人によって異なり、大きく分けると次のような2つのタイプがいることに気づきます。

  • 透明なプラスチックごしに中の錠剤がみえる側を上に向けて、親指で押し出して、下に落ちてくる薬をもう片方の手で拾うタイプの人
  • 反対にアルミの側を上に向け、プラスチックの側を下に向けて人差し指などで錠剤を押し上げて出すタイプ

さて、みなさんはどちらのタイプでしょうか?

この例でも、いずれのタイプの人も自分が普段やっている出し方が普通だと考え、自分がやっていないもう一方の薬の取り出し方があるのを知ると、その取り出し方に違和感を感じます。さらにこの例で面白いのは、いずれのタイプの人も自分が普段やっていない方の薬の取り出し方では「薬が落ちてしまいそう」と感じることです。

普段、錠剤を押し上げて出している人にとっては、下に薬を押し出すのは薬が出てくるところが見えないので落としそうに感じるし、逆に下に押し出す人にとっては、シートの上で薬が転がってしまいそうで落としそうだと感じるのです。

顧客やサービス提供スタッフなど、様々なステークホルダーを巻き込んだ形で進めるサービスデザインのプロジェクトでは、いかにメンバー間で「見えないサービス」のイメージを共有するかがキーとなり、そのため視覚表現を駆使してサービスアイデアのイメージを伝えあうことが大事だということは、前回の「ヘルスケアサービスの事例にみるコデザインにおける視覚表現の重要性」のなかで実際のプロジェクトの事例をみながら紹介しました。

ただ、前回の記事のUPMCのサービスデザインの事例ではスケッチという初歩的な視覚表現のみの紹介でしたが、実際のサービスはスケッチに描かれた画像のように静止しておらず、常に動き、変化するものです。そうした動きや変化のあるサービスのイメージを共有するためには、プロトタイプを使ってシミュレーションする手法も必要になります。

今回はそうしたプロトタイプを使ってサービスのシミュレーションをする手法を使った例を動画で紹介しようと思います。