イノベーション創出を目的としたプロジェクトを設計するための3つの要素

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いま存在しない未来を自分たちの力でつくりあげようとする際、最も障害となるのはさまざまな外的な要因ではなく、実は、自分たち自身が無意識のうちにつくりあげてしまっている世界観=メンタルモデルだったりします。

とりたててARなどの仮想現実の技術を使わずとも、私たちは普段から抽象化というメガネをかけて本当の世界とは異なる世界像を見ています。そのメガネを通してみた世界観が個々人それぞれがもつモノの見方であるメンタルモデルです。メンタルモデルをあらかじめ形成しておくことで、私たちは普段の生活のなかで効率的に、効果的に行動するための判断を容易にしています。

ところが、そのメンタルモデルが、未来について考えようとする際には、誤った判断を生み出すバイアスとしても働いてしまうのです。現在に最適化したメガネが未来の映像を曇らせるのです。

過去の成功体験からつくられた「こうすれば儲かる」といったメンタルモデルが、ビジネス環境が変わっても、かつて存在した「こうすれば」と「儲かる」の関係性が失われたことを気づかなくさせてしまうことなどが、その典型でしょう。

そのため、自分たちの新しい未来の生き方や働き方を創造しようとすれば、何よりこの自分たち自身のメンタルモデルを自覚し、壊すことが必要になってきます。そのためのいろんな方法が実践的に研究されているのが、まさに現在の世界的な状況だと思いますが、今回は私たち自身がふだんイノベーション創出を目的としたプロジェクトを支援する際に考慮している事柄についてすこし紹介してみようと思います。

イノベーション創出を目的としたプロジェクトを設計するための3つの要素

一言でイノベーションの創出といっても、いろんなケースがあります。社会課題の解決に向けたソーシャルイノベーションに絞ってみても、企業が主体となって社会課題の解決に役立つような商品/サービスを企画開発し提供していくようなケースもあれば、NPOや社会起業家が主体となって価値の提供を行っていくケースもあります。また、より複雑な社会問題の解決を目指す際には、企業や自治体、NPO、地域の住民たちが協力しあって課題の解決を目指すケースもあると思います。

そうした様々なケースがありますし、同じように企業が主体となってイノベーション創出を進めるケースであっても課題によってその解決に向けたプロセスは異なります。

ですので、一概にイノベーション創出の基本プロセスはこうだと示せるものではないというのが、いろんな課題解決のお手伝いをさせていただいている私たちの実感です。そのため、個々の課題に応じて課題解決に向けたプロジェクトのプロセスを設計させていただいているのですが、私たちがそれを行なう際、基本としているのが次の3つの要素です。

  • 機会/課題の発見:新しい価値を生むための機会や新しい解決策を必要とする問題の発見など、どのような機会/課題に対してイノベーションを実現していくかを明らかにする。
  • アイデアの創出と実現:フォーカスを定めた機会/課題に対して、どのような形のサービスやソリューションを企画し実現していくか。アイデアを出し、プロトタイピングを使ってアイデアの検証も行ないながら実現の可能性を探る。
  • イノベーション創出の場の形成:上記の「機会/課題の発見」と「アイデアの創出と実現」のための議論や作業を共同作業として行なう場の形成とその場のファシリテーション。

大きく分けると、この3つの要素の組み合わせでプロジェクトを設計させていただいております。それぞれの要素のなかに箇条書きした「民族誌学的調査(エスノグラフィー)」や「ワークモデル分析」、「プロトタイピング」などの項目はプロジェクトを進める上で用いる手法となりますが、こちらも課題によってどんな手法をどんなタイミングで用いるかを決めていきます。

「自分たちで未来をつくる」という想いをもった人たちが集まる場をつくる

このイノベーション創出のプロセスを組み立てる際に考慮するのは、どうすればプロジェクトに関わるメンバー、ステークホルダーがもつ既存の世界観=メンタルモデルを自覚できるようにでき、かつ自覚したそれらを壊した上で、新しい世界モデルの創造に目を向けられるようにできるか、そのためにはどんな手法を用い、それらをどんな順番で実施していくかということです。

なかでも一番大事にしたいのは、やはり「イノベーション創出の場の形成」の部分です。自分たちが知らず知らずにもってしまっているメンタルモデルを自覚した上で、それとは異なる新しいモデルを考え出し実現しようとする意欲をもった人たちが集まった場をいかに作れるか?が非常に大事なことです。

もちろん、意欲だけあっても、なかなか既存のメンタルモデルから抜け出せずに、新しいアイデアが出てこないということはあるので、様々な手法を組み合わせながら場のファシリテーションを行なう工夫も同時に必要なのですが、それでも元々「自分たちで未来をつくる」という想いを持たない人が集まってしまえばファシリテーションだけではどうにもなりませんので、やはり想いをもった人を集めることが大切になります。

意欲をもった人たちに、エスノグラフィーで得た知見や、課題解決に向けて一歩先行く行動をすでにはじめている人に来ていただき話してもらうフィッシュボウルのような刺激を与えることで、自身のバイアスに気づくきっかけを与えること。そして、何より集まった人たち同士で対話を重ねることでおたがいが相手の固定観念に気づくためのフックとなるような関係がつくれるように工夫するのです。

多様な人たち同士がたかいに相手を尊重しあいながら対話できる環境をつくる

その意味では、場づくりにおいて「想いをもった人を集める」こととともにもうひとつ大切にしていることは、「複雑な社会課題は多様性をもった「みんな」で解決する」という記事でも書いたように、できるだけ多様なステークホルダーにイノベーション創出の場に参加してもらえるようにすることです。

さまざまな立場にある人が集い、たがいに話をできる場をつくることで、たがいに自分のバイアスに気づく機会は増えます。立場の違いから異なって見える相手の風景を、自分とは違うからという理由で否定するような態度になってしまうと、自分のバイアスには気づけませんが、相手の言うことを尊重し、その話に出てくる景色がなぜ自分に見えているものと違うのかということを各自が考えられるようになれば、相手と自分の見え方の違いを生み出しているバイアスを明らかにすることもできます。

ですので、場づくりにおいては単に多様な人を集めるだけでなく、異なる立場にある人同士がたがいに相手を尊重して対話ができるような場づくりが必要です。その基礎となる部分ができていなければ、どんなに対話の手法としてのワールドカフェやフィッシュボウルなどを駆使しても、その先のイノベーション創出につながるような対話にはなりません。また、たがいを尊重しあうような関係をつくれずにいると、どんなに意欲をもった人に集まってもらっても、徐々にその意欲が失われていってしまうこともあるので、このあたりはファシリテーターの腕の見せ所です。

カスタマージャーニーマッピングなどを行なう際も「自分たちのバイアスを取り除く」ために行なっているということを理解する

こうした場づくりを下敷きにすることで、「機会/課題の発見」と「アイデアの創出と実現」の両方の段階を通じて、固定観念で見えなくなっていた機会をあらためて見出すことができ、スケッチやプロトタイピングを通じたアイデアの具現化〜検証を通じて、いかにその機会を活かして新たな価値創出を可能にできるかの検討を進めていくことが可能になります。

ですので、ワークモデル分析や最近注目を集めている「カスタマージャーニーマップ」などのユーザー行動や体験の分析手法も自分たちのバイアスを取り除く意味で有効であるのですが、どういうわけか、その効果を最初から無効にしてしまうかのように、ワークモデルやジャーニーマップのテンプレートを求めてしまうケースも目につきます。

本来、ジャーニーマップに決まったテンプレートはない。画像参照元"UX Week 2012 Recap: Experience Mapping FTW!")

テンプレートというあらかじめ用意した自分たちの視点やフォーマットに、観察やインタビューで得たユーザーの体験を無理矢理押し込めて理解したつもりになるだけなら、わざわざユーザーとの接点を持つ必要はありません。自分たちとは異なるユーザーたちの行動を現場で観察したりインタビューしたりするのは、あくまで自分たちのメンタルモデルを突き破るような発見をそこに見出すためなのですから。

テンプレートの構造に観察結果をあてはめるということは、自分たちが最初からもっていたモデルのなかでユーザーの行動を解釈してしまうことです。そうではなくカスタマージャーニーマッピングにしても、ワークモデル分析にしても、観察結果そのものを整理するなかで新たな構造をもったモデルを見つけ出し組み立てていくことに意味があるのです。

イノベーション創出を邪魔しているのは自分たち自身であることを常に自覚する

いくらそれが話題になっているからといってカスタマージャーニーマップなどの個別な手法にばかり注目してしまうと、どうしてもイノベーションを創出するプロジェクトのキーとなる「既存のメンタルモデルを壊し、新たなモデルを想像できるようにする」ことを可能にするために、その手法を使っているのだということが見えなくなりがちです。

単に、カスタマージャーニーマップが「サービスを利用するユーザーの行動全体を旅の過程に見立てて、その感情の浮き沈みも含めて解釈する手法」だということを理解するのではなく、では、なぜ、それを自分たちがイノベーション創出のために用いているのかを認識していなければ、苦労して分析する時間を費やすこと自体が無駄になってしまいます。

繰り返しになりますが、イノベーション創出を目的としたプロジェクトに向かう際には、イノベーション創出を邪魔しているのは自分たち自身であることを常に自覚することが大事なのだと思います。そう考えることで、あらゆる手法が自身の固定観念を打ち破ってくれるきっかけを与えてくれるきっかけであり、同じようにともに対話をしたり作業をする人びともまた自分とは異なる視点で自分の思い込みを正してくれる存在であることが理解できるようになります。

そして、何より、イノベーション創出を邪魔しているのは自分たち自身であることを理解することでまた、逆にイノベーションを生み出すことができるのは、実はそれを邪魔している自分たち自身だということにも気づくことにもなるはずです。そう。自分たちが求める未来をつくれないのは誰のせいでもなく、自分たち自身がそうしようとしないからだということに。

そんな認識をもってイノベーション創出に迎えるようにするためにも、先の3つの要素を考慮したプロジェクト設計が大事だと思っています。

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