イノベーションにつながるアイデアの3つの条件

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イノベーションにつながる新しいアイデアを生み出そうとする際に、障害となるものが2つあります。

「マーケティング主導」と「技術主導」への偏りがそれです。

いずれも新しいアイデアを創出し、実現していく上では欠かせないものなのですが、そのいずれかに偏ってしまうとアイデアの可能性を狭めたり、アイデアそのものを凡庸なものにしてしまいがちです。

マーケティングと技術は、昔からよく対立するものといわれていますが、その対立そのものが新しいアイデアを阻む要因ではありません。仮にマーケティングと技術が仲良くやれたとしても、まだ障害は残ってしまうのです。

今回はそのあたりをすこし考えてみようと思います。

イノベーションにつながるアイデアの3つの条件

何故「マーケティング主導」や「技術主導」への偏りがイノベーションの障害になるのか? を考えるにあたって、IDEOが昔からイノベーションにつながる「成功するアイデアの条件」として挙げている以下の3つの条件について見ていくことからはじめようと思います。

  • 経済的実現性(Viability):持続可能なビジネスモデルの一部になるか?
  • 技術的実現性(Feasibility):現在またはそう遠くない将来に、技術的な実現性があるかどうか?
  • 有用性(Desirability):人びとにとって合理的で、役に立つかどうか?

IDEOのWebページにも同様の図で明示されていますが、下図のような形で、この3つの条件のバランスが取れたときイノベーションが生まれるとされます。

この3つの条件はいずれも新しいアイデアを発想していくうえで、その方向性に制約を与えるものです。ただ、その制約は単に自由度を奪うものではありません。ティム・ブラウンが『デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方』の中でも書いているように「制約がなければ、デザインは生まれない」し、「相反するさまざまな制約を喜んで(時に熱烈に)受け入れることこそ、デザイン思考の基本」です。

制約を理解することとはつまり、そのアイデアの創出〜実現に関わるさまざまなステークホルダーのニーズを、その人自身が意識しているかどうかに関わらず、事細かに理解するということです。制約があまりないという状態は逆にいえばニーズの把握があいまいな状態であって、それでは画期的なアイデアが生まれてくるはずはありません。

よく「うちの商品は広い層の消費者に向けてのものだからターゲットは設定しない」などという話を聞いたりしますが、それこそ制約条件を見つけることができない結果、曖昧なアイデアしか出せなくなる典型的な例です。制約を明確にできずに創造的なアイデアが生み出せないのは、そもそもの問いの設定が平凡すぎるということと同じです。平凡な問いからは平凡な答えしか生まれてきません。

ありきたりの課題に対してはありきたりの答えしか見出せません。革新的な答えを見つけるためには、誰も気づいていない人びとの課題を見つけることで、それをどうしたら解決できるか?と革新的な問いとして発する必要があるのです。

「経済的実現性」への偏り

この3つの条件のなかで、人びとにとっての「有用性」に重点を置くという点において、デザイン思考はその他のアプローチと一線を画するのだといえます。

こう書くと「なんだ、人びとのニーズを大事にするなんて当たり前のことではないか」と感じられる方も少なくないと思います。しかし、ティム・ブラウンも指摘するように「現実には大半の企業が新たなアイデアを考案する際に別のアプローチを用いている」ことが多いように思います。

当然ながら、企業は既存のビジネス・モデルの枠組みに適合するかどうか、という制約を開始点にしがちだ。ビジネス・システムは効率性優先で設計されるため、新しいアイデアは漸進的で平凡なものになってしまう。したがって、競合他社にもたやすく模倣されてしまうというわけだ。

そうなんです。「マーケティング主導」で「人びとのニーズを大事にする」といった場合の多くは、あくまで既存のビジネスモデルからはみ出ない範囲で「人びとのニーズ」を見ようとするのです。

テレビならテレビに関する「人びとのニーズ」、カメラならカメラや写真に関する「人びとのニーズ」、また音楽プレイヤーなら音楽を聴くことに関する「人びとのニーズ」という形で、自分たちの既存のビジネス領域から出ないままに「人びとのニーズ」を探ろうとしてしまいます。

それは既存の市場で、既存の顧客をターゲットユーザーと捉えて、並みいる競合他社との血みどろのシェア競争を行っていく場合の戦い方で、そこからは当然イノベーションは生まれてきません。

何より、そういう風にあくまで自分たちのビジネスモデルのシステム効率性を重視した形で見てしまうと、そもそもの「人びとのニーズ」を見誤ることになります。そして、スマートフォンに丸ごと顧客を奪われたりという事態が起こるのです。

あまりに「持続可能なビジネスモデル」という点にこだわりすぎるがゆえに、すでに成り立っているビジネスモデルの呪縛から抜け出せず、競合他社がどこも手をつけていない新しいビジネス領域の可能性を見落としてしまうことになるのです。

「技術的実現性」への偏り

もう1つが「技術的実現性」への過度なこだわりです。

これは実現性にこだわりすぎて、今ある技術の範囲内で考えようとしすぎることによってアイデアが貧困になりすぎるということばかりが問題なのではありません。

「現在またはそう遠くない将来に、技術的な実現性がある」というだけで、「有用性」も「経済的実現性」も考慮されないアイデアが新奇性の魅力だけで評価されてしまうということもあるからです。

新奇性の魅力をもつ技術が、実際に市場において有用性を認められる形を見つけ、それをさらにビジネスとして成立するモデルの構築ができるようになるためには、以下でも指摘されているように非常に時間がかかります。

ピーター・ドラッカーの古典的な学術書『イノベーションと企業家精神』でも説明されているように、テクノロジーへの依存は非常に危険だ。技術的なイノベーションが、投資した時間と資源に見合うだけの即時的な利益をもたらすケースは比較的少ない。

ただし、技術的イノベーションに頼ると時間がかかりすぎるからといって、短期的に収益が見込めそうな技術に的を絞るというのは判断としてはとてもナンセンスです。何故なら、結局のところ、その判断は短期的な収益が見込めそうな既存のビジネスの漸進的な改善を目指すことにつながってしまい、イノベーションとはかけ離れた方向に向かうことになるからです。それでは先のマーケティング主導の場合と同じで、既存市場での競合他社との血みどろのシェア争いからは抜け出せないからです。

単純に短期的な収益が見込めそうな技術革新に絞るのではなく、そもそも技術的イノベーションに時間がかかるのは何故か?を理解することで、その時間を縮めるために必要な「有用性」側からのアプローチを目指すことが必要なのだと思います。

人びとの行動を変えるという課題へのチャレンジ」という記事を読み直してみてください。そこではIDEOが米国エネルギー省(The US Department of Energy)向けに実施したプログラム「シフト・フォーカス」で、高度な技術開発を軸としたソリューションの提供を行なう戦略から、人びとの生き方に合ったソリューションを生み出す戦略へのシフトすることで、省エネルギー化のための活動への消費者の参加を促進した事例を紹介しています。その例ではいったん人びとの「有用性」にフォーカスを移すことで、それまで一向に進まなかった省エネルギー化技術の市場導入を進めることができたという「有用性」と「技術的実現性」のバランスをとることでイノベーションが促進された恰好の例を見ることができます。

IDEOが明らかにしたのは、人びとにとって「エネルギー効率」は抽象的な概念でしかなく、自身の生活の快適性やスタイルなど、人びとが本当に関心を示す事柄を満たすための手段でしかないということでした。

問題は「エネルギー効率に対する認識は高いのに、それを満たす新技術を採用しないのは何故か?」ではなかったのです。DOE-EEREは架空のニーズを勝手に想定してしまった上で、新しい技術によるソリューションを模索していたのです。

「有用性」という浮き輪にしがみついて

いま世界的にイノベーションやそれを生み出す方法に注目が集まるのは、基本的にはいま市場で提供されている価値(具体的には商品やサービス)への需要が飽和ぎみである一方で、大きく変化する社会環境のなかで既存のシステムが機能不全に陥ったことで生み出された、解決すべきさまざまな課題や満たされない数多くのニーズがあるからでしょう。そうした社会における有用性(不要さを含めて)に目を向けないまま、既存のビジネス領域のなかで思考したり、技術革新でのみ思考を続けるだけでは、大きく変わろうとしている社会の欲求に応えていけるだけのイノベーティブなアイデアはなかなか生まれてきません。そして、そうしたアイデアを創出できない以上、変化する市場のなかで取り残されてしまうことになります。

そうならないためにも、いったん既存のビジネスや技術の縛りを括弧にいれた形で、人びとや社会における「有用性」を自由な目で問うことが必要です。そして、それができるのが"人間中心"のアプローチであるデザイン思考です。

そのアプローチをとることで、もしかすると皆さんのビジネスモデルそのものや働き方にも変化を求められることになるかもしれません。実際、お手伝いさせている多くのプロジェクトが途中でそうした判断に迫られることがあります。そして、そうしたリスクをとりつつも前に踏み出すことが時には必要です。そこであまりにリスクを回避しすぎてしまうと、もっと大きなリスクから抜け出せなくなるというのは「イノベーションのジレンマ」が教えてくれることなのですから。

もちろん、闇雲に「やってみないとわからないから」と未知の領域にズタズタと土足で踏み込んでいくのではいけません。けれど、沈没する客船にしがみついているよりは、浮き輪を抱えて海に飛び出すことを選ぶことが求められいるのがいまではないでしょうか。そのとき、海の藻屑となって消えてしまわないように助けてくれる「浮き輪」の役目を果たしてくれるものこそ、社会や人びとの「有用性」なのだと思います。「有用性」をしっかり握ってさえいれば、荒波にのまれてしまうことなく泳ぎ続けることができるはずです。

そして、「道なき道を歩いてく 迎合せずただマイペース」という前回の記事でも書いたように、そうしたレールが敷かれていない道を「有用性」だけを手掛かりに進むためのさまざまな方法が提供されているのが、デザイン思考というアプローチです。

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