人びとの行動を変えるという課題へのチャレンジ

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最近も相変わらず「デザイン思考のアプローチを取り入れると、どれだけ(ビジネス的な)成功が得られるの?」と訊かれます。残念ながら、その疑問からスタートしてしまうとデザイン思考の利点を十分に活かすことはできません。

デザイン思考は、人間中心のイノベーションを実現する手法です。「デザイン思考のアプローチを取り入れると、どれだけ成功が得られるの?」という思考からは、そもそもの「人間中心」の姿勢が抜け落ちてしまっています。デザイン思考は「人間中心」の姿勢に立った上でイノベーションを実現することを目的としますので、成功うんぬんをいうのであればイノベーションが実現できたかどうかが成功の指標です。

以前に書いた「コミュニティ中心のデザインが求められる参加型社会という記事の中でも指摘していますが、このグローバル化した経済のなかでの「つながった社会」において、企業は自らの社会的な存在意義を見つめ直すことが求められているはずです。様々な課題を抱えた社会において、社会がそれらの課題を乗り越えていくために、自分たちがどんな価値創出に貢献できるかをあらためて定義しなおせた企業だけが、これからの市場ではビジネス的な成功を得られるのではないでしょうか。そうした視点に立ったときにこそ、生きるのがデザイン思考の人間中心のアプローチだと思います。

人びとの行動を変える

ただ、社会的な問題を解決するイノベーションを実現するためには、企業の側だけが自らの取り組み方を変えるだけでは十分ではありません。ティム・ブラウンも『デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方 』 のなかで指摘していますが、企業が権力を明け渡し、消費者を双方向プロセスの参加者としてみなす参加型社会においては、消費者も企業と同様、社会における責任を公平に負い、社会的問題の解決に向け、能動的に行動する必要があります。

まわりを見ても、こうした参加型の経済モデルへの移行をしっかりと感じとり、自ら積極的に社会を変える活動をしはじめた人は、若い人を中心に多く見かけるようにもなってきています(若い人の場合、自分の生活を変えるというより、従来の古い生活に入る選択をしないということかもしれませんが)。ただ、それでも、大部分の人びとはこれまでの生活を大きく変えるような行動はなかなかできなかったりするのが現実です。

行動ができない人にも様々なレベルがあって、そもそも行動を変える必要性さえ感じとっていない人もいれば、逆に、変わらなくてはと思いつつも具体的にどのように行動してよいかがわからないという人もいるでしょう。

社会的な問題を解決するイノベーションの実現を目指す場合、まさにこの「人びとの行動を変える」にはどうすればよいか?を見つけること自体が大きな課題になるケースが数多くあるはずです。そして、そういうケースでこそ、デザイン思考の人間中心のアプローチが有効なのだと思います。

プログラム「シフト・フォーカス」

そうした「人びとの行動を変える」という課題にデザイン思考のアプローチでチャレンジした事例の1つに、IDEOが米国エネルギー省(The US Department of Energy、以下、DOE)向けに2009年に実施したプログラム「シフト・フォーカス」があります。

(参照元:Shift Focus / IDEO

DOEは、エネルギー政策と原子力の安全性に責任を負うアメリカの政府機関であり、その中のエネルギ効率および再生可能エネルギー局(以下、DOE-EERE)は、エネルギー効率の高い新技術を消費者により魅力的にするための戦略開発をIDEOに依頼しました。DOE-EEREは、増加傾向にある家庭内エネルギーをいかに効率するかについての一般認識は高まっているものの、消費者が実際には省電力技術を採用しないという問題を抱えていました。

IDEOは、このプログラムに際して、アメリカの各地で集中的なフィールドワークを行なって、エネルギー効率に関する消費者の態度について調べました。そこで明らかになったのは人びとはエネルギー効率になど関心がないということでした。

これはDOE-EEREにとっては非常に興味深い結論でした。というのも、DOE-EEREが当初想定していたのは、人びとはエネルギー効率に関心を持っているという前提であり、だからR&Dに投資してエネルギー効率の高い新しい技術を開発することで人びとの要求を満たすことだったからです。

IDEOが明らかにしたのは、人びとにとって「エネルギー効率」は抽象的な概念でしかなく、自身の生活の快適性やスタイルなど、人びとが本当に関心を示す事柄を満たすための手段でしかないということでした。

問題は「エネルギー効率に対する認識は高いのに、それを満たす新技術を採用しないのは何故か?」ではなかったのです。DOE-EEREは架空のニーズを勝手に想定してしまった上で、新しい技術によるソリューションを模索していたのです。

技術主導のソリューションから、人びとの生活に合わせた価値提案への戦略シフト

その結果からIDEOのデザインチームは、DOE-EEREに、高度な技術開発を軸としたソリューションの提供を行なうという従来の戦略から、人びとの粋からに合ったシリューションを生み出す戦略へのシフトを提案しました。

より実用的な価値提供や、人びとの人生の節目の時期にあわせた新しい価値提案ができるよう、DOE-EEREやそのパートナー向けに、顧客の暮らしに適した経験デザインを行なうための「機会マップ」とデザインガイドラインを作成したと言います。

また、そうした「機会マップ」やガイドラインに基づく形で、スタイリッシュで、かつ熱効率のあt会窓の覆いや、エネルギー効率の高い照明を使った店舗用陳列、新居購入やリフォームなどのタイミングで配る限定版の「シフト・フォーカス・ブック」などの情報ツール、さらには戦略をパートナーに広く普及するためのワークショップやプレゼンテーションツールなどもデザインして提案したそうです。

ポイントは、この事例では、DOE-EEREが目指した省エネルギー化のための活動への消費者参加の促進という目的自体は、戦略変更前と変更後で変わっていないということでしょう。

変更されたのは、目的ではなく、その目的を達成するための戦略のデザインだったという点がポイントだと思います。つまり、デザインすべきは、目的でも、具体的なソリューションでもなく、戦略なのです。

いかに社会的価値の創出に貢献できるか?

これは政府機関の事例ですが、企業の場合でも同じではないかと思います。どんな社会価値の創出に貢献するか?という哲学は、企業それぞれが考えるものであり、それを実際にどう実現するかということをデザイン思考を使った人間中心のアプローチで考えことが必要なのだと思います。

言い換えれば、社会的な課題をいかに解決するかという視点に立って、どういう形の「人びとの行動を変えるか?」は企業が哲学として決めるべき事柄であり、それを具体的にどうやって「人びとの行動を変えるか?」という点は、「シフト・フォーカス」のプログラムのように人びとの生活に合わせた価値提案をするという戦略をとることが求められるのでしょう。

グローバル経済、環境問題、モバイルネットワークでいつでもどこでもつながった人びと。こうした社会的環境の変化は、企業に対してもより強く社会的責任を求めるようになっています。自身のビジネス的成功しか考えず、社会的価値の創出に貢献しようとしないブランドが生き残りにくい市場環境を生み出しています。そうした市場でビジネスでの成功を得ようとすれば、企業はまず自分たちがいかに社会的価値の創出に貢献できるかをあらためて考え直す必要があるはずです。

自分たちがいかに社会的価値の創出に貢献できるかをあらためて考え直すことで、自分たちの社会的価値を見つめ直している企業だけがこれからの市場においてビジネス的成功を手に入れられるのではないでしょうか。

デザイン思考は、企業がそうした認識に立ったときにこそ、成功をもたらす方法として機能し得るのです。

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