2012年6月アーカイブ

当ブログではこれまで繰り返し「デザイン思考は人間中心のイノベーションのための方法です」と書いてきました。

もちろん、実際に顔を合わせてデザイン思考についてお話をさせていただく際も同様に、「デザイン思考は、人間の暮らしや仕事にフォーカスすることで、意識の外で見えなくなってしまっているイノベーションの機会を見つけだし、それを具体的に実現していくための方法です」などと説明させていただいています。

ただ、時にこの「イノベーション」なる言葉がうまく伝わっていないと感じるケースもあったりします。

それがうまく伝わらないがゆえに、イノベーションの実現を目指そうとするのにも関わらず、目的地にたどり着くための地図を求めてしまったり、はじめから計算や計測や計画に頼ろうとしすぎてしまったり、既存の商品カテゴリーや従来どおりの定義に固執しすぎてしまったりします。

まだ見ぬ未踏の地へと向かおうとするのに、普段どおりの通勤でもするかのように最短ルートの検索ができることや行き先に辿り着くまでの正確な時間が把握できることを期待してしまうし、そもそも、そこに道や交通手段がないかもしれないと想像することさえできないのは困りものです。

舗装され、交通機関が首尾よく整備された道を、最短ルートや最安値の計算ができるよう提供される検索システムを用いて進んでいくのであれば、従来どおりのマネジメント思考が有効です。でも、いまその道はとても混雑しています。そもそも1つのカテゴリーで生き残れる商品の数はせいぜい3番手くらいまでだと思いますが、グローバルにつながった市場環境では市場自体が世界規模で統合されたために市場の数的には減っている状況です。そういう状況で従来どおりのカテゴリー内のシェア争いという戦略を選ぶのは賢いやり方ではないことは多くの人が気づいているはずです。あまりに混雑しすぎて、血みどろの戦いをしてもなお、勝てる見込みがなかったりするのですから。

だから、これまでにない市場の創出を試みようとする。ようするにブルーオーシャンを目指す。そのためには新たなイノベーションとその市場の創出を同時に行なうことになる。けれど、目的地さえ定かではない道なき道を歩いていかざるをえないイノベーションを目指すのであれば、従来のマネジメント思考的な計算や計画とは異なる、手探りによる前進を可能にするデザイン思考のほうが向いています。

イノベーションの実現を目指す活動に取り組む際、大事なことの1つは自分たちが実現しようとしていることの"社会性"についてよく考えてみることだと思います。

自分たちが実現しようとしているイノベーションは社会のどのような問題を解決するものなのか、どのような社会的な価値の創出に貢献するのか。そうした視点で、常に自分たちの活動を見直し、評価することが非常に大切です。

作りながら考える」。これはデザイン思考でアイデアを創出する際の基本姿勢です。

ですが、基本姿勢だからといって、それが実践できているかというと、どうでしょう? 皆さんはちゃんと実際に「作りながら考える」ことをしているでしょうか?

言葉で考え、言葉でアイデアを伝えるのではなく、イラストや簡単なプロトタイプを作成することで視覚的に具体的にアイデアを考え、それを他人に伝えるようにすること。それがなければデザイン思考ではないといっても過言ではないと想います。

最近も相変わらず「デザイン思考のアプローチを取り入れると、どれだけ(ビジネス的な)成功が得られるの?」と訊かれます。残念ながら、その疑問からスタートしてしまうとデザイン思考の利点を十分に活かすことはできません。

デザイン思考は、人間中心のイノベーションを実現する手法です。「デザイン思考のアプローチを取り入れると、どれだけ成功が得られるの?」という思考からは、そもそもの「人間中心」の姿勢が抜け落ちてしまっています。デザイン思考は「人間中心」の姿勢に立った上でイノベーションを実現することを目的としますので、成功うんぬんをいうのであればイノベーションが実現できたかどうかが成功の指標です。

以前に書いた「コミュニティ中心のデザインが求められる参加型社会という記事の中でも指摘していますが、このグローバル化した経済のなかでの「つながった社会」において、企業は自らの社会的な存在意義を見つめ直すことが求められているはずです。様々な課題を抱えた社会において、社会がそれらの課題を乗り越えていくために、自分たちがどんな価値創出に貢献できるかをあらためて定義しなおせた企業だけが、これからの市場ではビジネス的な成功を得られるのではないでしょうか。そうした視点に立ったときにこそ、生きるのがデザイン思考の人間中心のアプローチだと思います。

6月9日の「未来のユーザー要求を創出する方法としてのデザイン思考」というタイトルで、「観察(オブザベーション)」をメインテーマにしたデザイン思考ワークショップの講師をしてきました。

あいにくの雨の中、40人の方にご参加いただき、1時間の講義のあと、実際に「行動観察」のワークをやっていただきました。実際にやってみる前は、なぜ観察するのか? 腑に落ちなかった方も含めて、参加いただいた方がそれぞれ何らかの気づきを得てお帰りになられたようなのでホッとしています。

ワークショップの様子に関しては、主催の好川さんがブログにまとめてくれています。

最初のエクスサイズは、代表者にゼリーを食べてもらい、その様子を観察するというものでした。2回行い、観察結果を併せて、簡単な利用者モデル像を作ってみるというものでした。

この演習については、人の行動では通常は見落としていることが多いことに気付いた人が多かったようです。

1時間程度の講義とこの「ゼリーを食べる人」の観察のあと、「スケッチをする人」の観察を行なって、計3時間のワークショップは終了になりました。

好川さんの記事中にもありますが、実際にワークで「観察(オブザベーション)」をやっていただいた前と後では、参加者の方々の「観察する」ということの意義の理解も大きく変わったのが感じられて非常に興味深かったです。短い時間の観察でもテーマを絞れば、気づきを与えることができるということを再認識させていただきました。