形の見えないサービスをどうメンバー間で共通認識を形成しながらデザインするか?
サービスデザインを行なう上で工夫が必要なのは、いかにして見えないものを見えるようにしてデザインに関わるメンバー間で共有するかという点です。

視覚化することでコラボレーションを可能にし、コラボレーションを成立させることで革新的なアイデアの創出を目指すのがデザイン思考というアプローチですが、サービスデザインを行なう上では「描きながら考える」、「作りながら考える」というデザイン思考の方法論ほど、ぴったりなものはないかもしれません。
革新的なアイデアを創出し、そのアイデアをプロジェクトメンバーだけでなく、その他のステークホルダーにも共有しながら現実のサービスに落とし込んでいく。そうしたサービスデザインのプロセスを動かしていくための核となるものが、デザイン思考をベースにした、様々なメンバーのコラボレーションによるコデザインのメソッドであり、それを可能にする視覚表現なのだと思います。
今回はそうした視覚表現を用いながらコデザインの形でサービスデザインを行う流れを事例を見ながら紹介していくことにします。
発見した3つの革新の機会をどう活かすか?
前回の「サービスブループリントを使って病院のサービスプロセスを分析した事例では、ペンシルベニア州ピッツバーグの病院 UPMC(University of Pittsburgh Medical Center)の神経クリニック部門のサービスデザインを、よく名前の知られたUXデザイン会社 Adaptive Path が手がけた事例を、以下の"UPMC Neuro Clinic Service Design"というプレゼンテーション資料を参照しながら紹介しました。
前回は、プロジェクトメンバーが現場でのフィールドワークで得た情報を元にサービスブループリントを使ってサービスプロセスを包括的な視点で分析したところ、「患者の待ち時間が多い」「バックエンドのスタッフのワークフローが複雑」「カッサム医師への依存度が高い」という3つの問題点が明らかになったことまで紹介しました。
メンバーはその結果を受け、以下の3つをクリニックのサービス体験の革新と改善の機会として捉えました。
- 患者が待ち時間を受け入れられるようにする
- ワークフローを改善する
- カッサム医師の負担をバランスさせる

(参照元:slideshare "UPMC Neuro Clinic Service Design"、以下同様)
そして、クリニック側のスタッフに調査分析の結果とともに共有を行ない、彼らとのコデザイン(共同デザイン)のプロセスに入っていったのです。
患者の体験にフォーカスする
Adaptive Pathとクリニックのスタッフからなど共同デザインのチームは議論の結果、3つの機会を活かすアイデアを考えるためには、まず患者の体験にフォーカスすべきであることを確認し、あらためて患者へのインタビューを行なうことで、患者の感情や要求がクリニックに通う段階によって変化することや、患者に付き添ってクリニックに来る家族のことも非常に気にかけていることを発見しました。
その発見に基づく患者とその家族の感情と欲求の変化を以下のようなチャートにまとめています。
さらには、クリニックに通っている段階によって変化する患者の要求を明らかにするために、以下のような表形式でどのような段階で患者がどんなことを必要とするかを整理しています。
こうした形で患者の感情と欲求についての理解を深めた上で、コデザインのメンバーはサービス革新のためのコンセプトのアイデア出しの作業に移ったのです。
コンセプトを視覚化して患者の意見を聞く
サービス革新および改善のためのアイデアはブレインストーミングを重ねることで抽出されました。そして、出てきたアイデアの実現性を考えるために、以下のようなコストと価値の2軸で整理され、引き続き検討するもの(白字)とそうでないもの(グレー字)に分けられました。
そして、引き続き検討するアイデアに関しては、コンセプトを下記のようなスケッチとして視覚化しています。
そして、このスケッチとして視覚化したアイデアを患者に見せて意見を聞き、その有効性を評価してもらったのです。

これはスケッチという1種のサービスプロトタイプを使った初期段階でのユーザーテストの例といえるでしょう。
コンセプトブックを作成し、メンバー以外も巻き込む
こうした患者による評価を経たコンセプトはブラッシュアップされた上で、次のような形のコンセプトブックという形でまとめられています。
患者、その家族、スタッフ、カッサム医師という主要なステークホルダーに対して、それぞれのアイデアがどのように役立つかを、色分けされた脳のイメージを用いて表現しています。
上の画像の左側のアイデアでは、患者やその家族が待ち時間を苦痛に感じないようにするために、フリーのコーヒーチケットを配布するといったアイデアも表現されています。
サービス体験価値を高めるツールやシステムのアイデアも
その他では、カッサム医師に対する患者の信頼や親近感を高めるために、以下のように新規の患者に対して無料で配布するブックレットを作成するアイデアも見られます。
また、患者への情報提供や、患者からスタッフやカッサム医師への相談が可能なクリニックチャットといったサービスを提供できるようにするシステムのアイデアも見られます。
こうした視覚的な表現も用いながら、患者、コデザインのメンバーとして協力してくれるスタッフ、それ以外の医師やスタッフの間で共通認識を形成しながら、互いに意見を出し合いながら、サービスを革新に導くアイデア創出を行っていくことが、形の見えないサービスというものをデザインするためには欠かせない方法であることがイメージできるのではないでしょうか。
日本におけるヘルスケア分野のサービスについても、こうしたユーザー視点でのサービス革新が行なわれていく状況になればよいなと思っております。そうしたヘルスケア分野のサービスイノベーションに私たちもぜひサポートさせていけるよう尽力していきたいと考えていますので、課題をお持ちの方は気軽にご相談いただければと思います。
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