サービスブループリントを使って病院のサービスプロセスを分析した事例

| コメント(0) | トラックバック(0)
このエントリーをはてなブックマークに追加 

海外でのサービス&エクスペリエンスデザイン分野の事例を見ていると、気付くのはアメリカでは商用サービスのデザインがほとんどを示しているのに対して、ヨーロッパでは公共サービスの占める比重も高いということです。地域コミュニティにおける健康や医療の問題などを扱ったケースも少なくなく、より社会性の高い課題をデザインによって解決しようというソーシャルイノベーションの視点が含まれた事例が多く見られます。

20120213.jpg

一方、アメリカの事例でも公共サービスではありませんが、「医療/健康のサービス&エクスペリエンスデザイン事例」という記事で紹介したような薬局のサービスデザインや病院を対象にしたサービスデザインの事例は数多く見られ、医療やヘルスケアの分野がサービスデザインの1つの主要な領域になっていることがわかります。

日本においても、今後ますます高齢化が進んでいくにつれ、医療や健康に関する課題はより深刻なものになっていくことが予測されます。そうした社会的課題の解決に向けた取り組みとしても、デザイン思考をベースとしたサービス&エクスペリエンスデザインの必要性って今後増してくるのではないかと考えています。

UPMC 神経クリニックのサービスデザイン事例

そんなわけで今後も当ブログでは引き続きサービス&エクスペリエンスデザインのノウハウや事例を紹介していこうと思っていますが、今回はAdaptive PathのデザインディレクターJamin Hegemanによるスライド"UPMC Neuro Clinic Service Design"を参照しながら、サービスブループリントを用いて病院のサービスプロセスの問題点を分析した事例を紹介しようと思います。

医療/健康のサービス&エクスペリエンスデザイン事例」という記事でも医療/健康関連分野の事例をいくつか紹介しましたが、この事例でのサービスデザインの対象はUPMC(University of Pittsburgh Medical Center)というペンシルベニア州ピッツバーグにある病院の神経クリニック部門です。

サービスデザインのプロセスの最初の段階では「発見」のフェーズとして、エスノグラフィー的ユーザー調査が行なわれることが一般的ですが、この事例でも最初の段階で、オブザベーション(サービス現場の観察)、患者およびスタッフへのインタビュー、サーベイなどの調査により、サービス現場の実態や、患者やスタッフなどの異なるステークホルダーがどんなことを感じているかを調査しています。

現状のサービスの流れをサービスブループリントに

今回紹介したいのは、そうした現場でのフィールドワーク調査の結果の分析段階で、この事例では現状のサービス提供の流れを以下のようなサービスブループリントに落とし込むことで視覚化し、問題点を可視化しているということです。

(参照元:slideshare "UPMC Neuro Clinic Service Design"、以下同様)

サービスブループリントは、サービスデザインで用いる手法の1つで、「青写真」と呼ばれているように検討してきたサービスのデザイン案を設計図として描くことで、デザインとしてフィックスさせるためのツールです。

ただし、サービスの「形」を、顧客がサービスを利用するプロセスに従い、顧客の行うアクション、具体的なタッチポイント、顧客に相対するスタッフの行動、顧客とは接点をもたないサービス担当スタッフの行動、サービスを支援するシステムや関連スタッフの動きの関係として記述するという意味では決定したデザインを描くだけでなく、検討中のデザインを視覚化するために用いたり、今回の事例のように現状のサービス提供の「形」を視覚化することで、いまのサービスの提供形態における問題点を「見える」ようにする目的でも利用されているようです。

ちなみにサービスブループリントは、「サービスブループリントを用いたWebユーザビリティ評価」という記事でも紹介しましたが、上図のように横軸に顧客視点でのサービスの流れを、縦軸にタッチポイント、ユーザー行動、フロントスタッフの行動、バックエンドスタッフの行動、サポートシステムの動きを階層化した形で描かれます。

サービスブループリントを元に問題点を抽出

このUPMCの事例では、サービスブループリントを用いて視覚化した現状のサービスの流れから3つの問題点を抽出しています。

1. 患者の待ち時間が多い。

先に紹介した図と下の図を比べてみてください。下の図で赤く表示されたところが患者が待たされている時間ですが、その部分では対応するフロントスタッフのインタラクションが「?」となっています。

つまり、患者は何度も待たされることになるのですが、あとどのくらい待たされるのかを知らせたり、そもそも何故待たされているのかを伝えるフロントスタッフの対応はないということです。患者はあとどれくらい待たされるのかもわからず、繰り返し自分の名前が呼ばれるのをイライラしたり、不安になりながら過ごすことになるのでしょう。

2. バックエンドのスタッフのワークフローが複雑。

さて、では何故患者はそんなにも何度も待たされることになるのでしょう?

その原因はブループリントのさらに下部に目をむけるとわかります。

先ほど、患者の待ち時間に対応して「?」で表示されていたフロントスタッフのインタラクションの、さらにその下のバックエンドのスタッフの動きがとても複雑になっているのです。患者からは見えないバックエンドでスタッフが様々な作業を進めなくてはならず、その間、患者は待たされることになるのです。

また、複雑な作業プロセスはバックエンドのスタッフの作業負担を高め、看護師へのインタビューでは彼/彼女たちの疲弊した様子が伝わってきます。

3. カッサム医師への依存度が高い。

3つ目の問題点は、カッサムというこのクリニックの担当医師がサービス全体の流れのボトルネックとなってしまっている点です。

MRIの結果から診断を行なうのがカッサム医師だけであるため、複数の患者の対応が重なってしまった場合、そこでも待ち時間が生じてしまうのです。

ステークホルダーのニーズの抽出と、機会の発見

こうしたサービスブループリントを使って現状のサービス提供の流れの中に潜む問題点を抽出した後、この事例では患者、スタッフ、カッサム医師それぞれのニーズを引き出しています。サービスの問題をブループリントを使って視覚化することで、それがデザインの問題であることを明らかにすることができるのです。

そうした現状の問題点の抽出を行なった上で、その3つの問題を逆に、サービス体験の改善およびイノベーションの機会と捉えたのがこの事例です。ここからUPMCのスタッフらにサービスブループリントで視覚化した現状の問題点とそれを機会と捉える基本戦略を共有した後、彼らを巻き込んだ共同デザインのフェーズに入っていくのです。

この共同デザインのフェーズでの事例に関しては、また別の機会に紹介いたします。

関連エントリー


この記事に関する皆さんの意見や感想をぜひThink Social Facebookページでお聞かせください。




お問い合わせ

貴社サービスの体験価値の向上や、新しい革新的な公共サービスの立ち上げのサポートなど。
私たちにお手伝いできることはありませんか?
何かお困りのことなどございましたら、お気軽に下記リンクよりご相談ください。

≫お問い合わせフォーム



このエントリーをはてなブックマークに追加 

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://labo.coprosystem.co.jp/cgi-bin/MtOS5/mt-tb.cgi/179