昨日の「エクスペリエンスジャーニーマップ/カスタマージャーニーマップ」と「サービスブループリントを用いたWebユーザビリティ評価」と2回続けて、サービスデザインの分野で用いられるサービス提供の流れをモデル化するツールを紹介してきました。

数年前からヨーロッパやアメリカではサービスデザインが1つのビジネストレンドにもなっており、様々なデザインファームがサービスデザインのコンサルティングを行なっています。2011年の10月にサンフランシスコで開催されたService Design Global Conferenceでは、マクドナルドやセールフォース、フェイスブックなどの企業がスポンサーを努めていたりと「サービスデザイン」への注目は非常に高くなっています。
そのサービスデザインのデザインプロセスでは、デザイン思考をベースとした人間中心のデザインプロセスを各社がカスタマイズしながら採用していて、エクスペリエンスジャーニーマップやサービスブループリントもそのデザインプロセスのなかで使われいます。
今回はあらためて、そのデザイン思考に基づくサービスデザインのプロセスをいくつかのサービスデザイン会社の例を見ながら紹介していくことにします。
Snookのデザインプロセス
はじめにスコットランドのサービスデザイン会社Snookの例をみてみましょう。
SnookのディレクターSarah Drummondが作成した"Designing Online Public Service"というプレゼンテーション資料があります(参照:Online public service report - Snook)。
このプレゼンテーション資料の14ページ目に、次のような4段階のプロセスをまとめた図が示されています。

Snookのデザインプロセスでは"Embedding design"という言い方で、実際にサービスを行なう組織に「デザインを埋め込んで」いくために、デザインのプロセスでも対象となる組織のスタッフとの共同デザイン、共同開発が重視されています。すべてDではじまる"discover","define",""develop,"deliver"の4段階のプロセスのすべてで、サービスプロバイダーのスタッフ、サービス対象となるユーザーを巻き込みながら、民族誌学的ユーザー調査(エスノグラフィー)などのデザインリサーチ、プロトタイピング、ユーザーテストを行いながら、サービスのデザインを固めていくのです。
次に紹介するイギリスのサービスデザイン会社EngineがそのWebサイトで、サービスの基本となる5つの要素として「価値」「システム」「顧客の旅」「人」「市場でのポジショニング」を挙げています。この5つの要素の中でも、プロダクトなどと大きく異なるサービス特有の要素である「人」に焦点をあてると、デザイン過程にサービスプロバイダーのスタッフも巻き込みながら組織にデザインを埋め込んでいく(Embedding design)というSnookの考え方は非常に理にかなったものです。これこそ、組織や専門領域の壁を越えてイノベーションのためのアイデアを創出し実現していくデザイン思考のアプローチだと言えるのではないでしょうか。
その他の海外サービスデザイン会社のプロセス
では、Snook以外のサービスデザイン会社のプロセスについても見ていきましょう。
Engine
イギリスのサービスデザイン会社Engineのプロセスも、下図のようにSnookと同じ円形の表現でまとめられています。
(参照元:Engine Service Design | Service Design)
まず大きく"Identify","Build","Measure"の3つに分類された中で、さらに"Orientate","Discover","Generate","Synthesise","Model","Specify","Produce","Measure"の8つの段階に分けられています。
"Identify"にあたる"Orientate","Discover","Generate"のプロセスでは、最初にビジネスモデルや市場の傾向を把握した上でサービスのコンセプトを生成します。
その後の"Build"にあたる"Synthesise","Model"ではプロトタイピングを通じてアイデアを洗練させ、"Specify"でデザインをFIXすると同時にサービスブループリントなどのツールも用いながらドキュメントに落とし込んでいきます。さらに次の"Produce"の段階ではサービス提供に必要なWebサイトなどを具体的に制作して、サービスが提供できる状態にする。
最後の"Measure"はサービスを提供しながら効果測定を行ないながら改善を行っていく段階で、このあたりは古くからあるシックスシグマの改善手法も盛り込んだ形のプロセスになっていると言えます。
Proto Partners
オーストラリアのサービスデザイン会社Proto Partnersのプロセスもやはり円形で表現されており、"Discover","Design","Develop","deliver"の4つの段階はSnookとほぼ同じです。
図の周囲を囲む"People","Service Propositions","Touch-Points","Process","Perfomance"の5つの要素も、Engineの挙げる5つの要素と共通点があります。
(参照元:Proto Partners Service Design - Our Process)
31Volts
最後はオランダのサービスデザイン会社31Voltsのプロセスです。
(参照元:Service Design / 31Volts [service design])
図がオランダ語なので一部わかりづらいですが、英語にすると"Design research","Concepting","Prototyping","Shaping","Implementation"の5段階になり、こちらも他の3社と同様で、デザイン思考をベースにした人間中心デザインのプロセスと見ることができます。
デザイン過程で使っているメソッド・ツールをみても、ペルソナがあったり、カスタマージャーニーマップやサービスブループリント、シナリオ、プロトタイプがあったりとデザイン思考ではおなじみの手法が用いられています。
サービスデザインのプロセス
この4社だけでなく、他の海外のサービスデザイン会社を見ても、デザイン思考がこれほどサービスデザインの分野で使われているということに驚くほどです。
ここで単に反復的なデザインプロセスを採用している点を当然のこととして思考を停止してしまうのではなく、なぜサービスデザインという形のない困難な対象のデザインにおいても、このプロセスを用いているのか?と疑問に感じる姿勢が何より求められるでしょう。その感覚を忘れたら、前には進めないはずですし、何も得ることはできません。サービスという物理的な形ももたず捉えづらい対象をデザインするという点では、基本となるプロセスは共通していても、実際には個々の案件でその都度プロセスのなかで適切な手法やツールを選択しながら進めていくことが求められるという点は忘れてはいけません。
そして、何よりSnookが"Embedding design"というワードを用いて、様々なステークホルダーとの共同作業を重視していたように、関係者に積極的に参加できる場をつくるということが、サービスデザインのプロセスにおいては大事なポイントになるのです。その点においては何も反復することなく、すべてが一期一会なのですから。