デザイン思考と参加型社会

| コメント(0) | トラックバック(0)
このエントリーをはてなブックマークに追加 

先日の「発想のための「レシピ」や「方程式」は存在しない。」という記事で紹介した、MITメディアラボ副所長の石井裕教授のインタビューが掲載されている『COURRiER Japon 2012年01月号』には、「デザイン思考」で知られるIDEOのCEOであるティム・ブラウンのインタビューも掲載されています。

インタビューの中でティム・ブラウンは、イノベーション手法としてのデザイン思考を以下の4つの段階で紹介しています。

  1. 「どんな問題に取り組むのか?」というデザインの概要をまとめる
  2. 世界を新しい視点から観察する
  3. 洞察を発展させるための体系的なプロセスを見つける
  4. プロトタイピングでアイデアを視覚化する

この4つの段階の「2.世界を新しい視点から観察する」は「Webサービスとペルソナ」の前編中編で紹介したプロセスに相当するもので、「3.洞察を発展させるための体系的なプロセスを見つける」は昨日の後編で紹介したユーザーとプロセスのモデル化に相当します。具体的に、どんな手法を用いていて「観察」を行なうか、「プロセスの体系化」をするかは、様々な手法がありますし、状況に応じて適切な手法を選べばよいと思いますが、イノベーションを生むデザイン思考のアプローチとしてベースとなるプロセスは共通だと思います。

参加型経済モデル

さて、この4段階の説明も「デザイン思考」がどのようにイノベーションを実現する手法なのかを知りたい方には非常に参考になる内容だと思いますが、私が興味をもったのは別の点です。インタビューのなかで、ティム・ブラウンはソーシャル化する社会における持続可能な経済モデルという観点から、デザイン思考によるイノベーションの必要性を訴えているのですが、経済モデルの変換点を具体的に乗り越えていくための手法として「デザイン」を捉えていることでした。

ティム・ブラウンはまず2つの経済モデルがあると指摘しています。企業が消費者を完全に受動的に商品やサービスを購入する存在と看做す従来の消費主義的なアプローチの経済モデルに対して、「参加型経済」と呼ぶ別の経済モデルの存在について、次のように語っています。

最も魅力的な製品やサービスは、消費者との積極的なかかわりを必要とします。私はこの2つ目の経済モデルを「参加型経済」と呼んでいます。これは、人とかかわり合い、影響を求め、積極的に自らの消費にかかわろうとする消費者中心の経済です。企業はこうした彼らのニーズを支援するプラットフォームを提供すべきです。彼らは健全で生産的な社会と、健康で長生きできる人生を求めています。そこで、彼ら自身がより積極的に参加できるようにするのです。

『COURRiER Japon 2012年01月号』「ティム・ブラウン インタビュー」より

ここで言われる「消費者中心の経済」は、デザイン思考的に「人間中心の経済」「ユーザー中心の経済」と言い換えてもよいでしょう。しかも、その消費者は単に自分の都合でばかりものをいう我が侭な消費者ではなく、「健全で生産的な社会」と「健康で長生きできる人生」を社会性をもった目で望む、ソーシャル時代の消費者です。

ティム・ブラウンは「意味のあるモノやサービスとはどんなものか?」をデザインの問題として捉えており、モノの価値が飽和状態になっていて、かつ持続可能性だったり、個人や企業の社会性だったりが強く問われるようになった社会で、必要だが人びとが愛着も持てずに使い捨てるしかない商品を次々に売りつけるだけの従来的なマーケティングを行なう商品やサービスに対して、ビジネスとしての持続性があるか?と疑問を投げかけます。

従来のように単に消費される商品を提供するだけではなく、「企業はこうした彼らのニーズを支援するプラットフォームを提供すべき」であり、そのための選択肢を提供するためにこそ、デザイン思考の力が必要になっていると述べています。

サステナビリティのための戦略的デザイン

デザインと持続可能性という観点からは、ソーシャル化する世界におけるシェアリング・エコノミー、コラボ消費社会を扱って話題になったレイチェル・ボッツマンの『シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略』からも、こんな話も紹介しておきます。

エジオ・マンジーニはミラノ工科大学の工業デザインの教授で、サステイナビリティのための戦略的デザインの考え方をリードする人物だ。彼は、デザインのプロセス、つまり彼がコラボ的サービスシステムと呼ぶものを4つの重要なデザインの要素に分ける。それは、利用の円滑さ、サービスの複製可能性、アクセスの多様性、そしてコミュニケーションの強化だ。

世界的に物理的なモノのデザインから「サービスデザイン」への注目が集まっているということは昨日の「Webサービスとペルソナ(後編)」でも紹介しましたが、マンジーニがリードするサステナビリティのための戦略的デザインの考え方においても、モノではなく、サービスあるいは利用者の体験をデザインするという発想は重要な位置を占めています。

例えば、有限な財を「所有」という消費の形ではなく「シェア」という形で利用できるようにするためのコラボレーション・サービス・システム。マンジーニはこのコラボレーションのサービス・システムをデザインする上で重要なことは「参加にどれだけの努力が必要か?」という利用の円滑さの観点から見ています。その上でサービスデザインを行なうデザイナーの役割は、利用者の「必要な努力レベルを下げることで、ユーザーの意志の力にかかわらず、システムが目的を達成できるようにすること」だとしています。

ここでマンジーニが指摘している「利用の円滑さ」は、サービスがビジネスとして持続可能であるためには非常に重要な視点です。サービスを維持するためには、利用者も含めたシステム全体が存続していることが必要です。サービスプロバイダー側からみれば利用がある程度見込めるよう、システムをデザインしておかなくてはビジネスそのものを維持することはできません。例えば、Zipcarに代表されるようなカーシェアリングのサービスであれば、いつどこでどんな車をユーザーが利用したいと思うかを把握でき、かつ、そのとおりに車を配置できるようなシステムは求められます。

一方、利用者の側から見れば、利用した結果そのものは魅力的でも、利用する過程で過剰な努力が必要なサービスでは使ってみる気にはなれません。タクシーに乗れば楽なのはわかっていても長時間並ばなくてはいけないのであれば、利用するのに努力が必要です。同じくZipcarの例でいえば、iPhoneアプリでいつでも利用可能な車の位置を確かめ、予約でき、かつ、そのアプリ自体が車のキーになるような、努力のいらいない利便性がサービスの利用価値を高めます。サービスプロバイダー側からすると、こうりた利用者の利便性に配慮したシステムデザインをせずに、利用者の努力に期待していたのでは、競合のサービスにユーザーを取られかねません。サービスをサステナブルなものにするためには「利用の円滑さ」はシステムデザイン上、解決しなくてはいけない大事なテーマなのです。

サステナブルデザインのためのツール

これは昨日の記事でも指摘したアウトプット要求とサービス要求の違いです。アウトプット要求がユーザーの期待どおりでも、サービス要求の面でユーザーに努力を強いる場合(長時間待たされる、担当者の説明や利用画面がわかりづらいのを我慢しなくてはいけない、など)、サービス全体のシステムはうまく機能しません。

同じことはマンジーニが指摘する「アクセスの多様性」についても言え、同じ機能に異なる様々なデバイスからアクセスできるようにしなければ、多様なユーザーの利用や様々なシーンでの利用を期待することはできません。ロンドンのサービスデザインコンサルティング会社であるEngineは、サービスデザインにおける主要な5つの要素の1つに「システム」を上げていますが、そのシステムを期待どおりに機能させ、目的を達成できるようにするためには、デザイナーはユーザーが努力せずともサービスを利用できるよう、ユーザーのサービス利用コンテキストを把握する必要があるのです。いつ、どんな時に、ユーザーはどんなことをサービスに期待するのかをエスノグラフィーなどを通じて把握し、その情報を元にカスタマー・ジャーニー・マッピングのようなツールを用いてサービス利用プロセスをモデル化した上でシステムデザインに落とし込むことが必要でしょう。そうしたデザインプロセスがあってこそ、Zipcarのような利用の円滑さやアクセスの多様性に配慮されたサービスがデザインできるのでしょう。

こうしたデザインプロセスを助けてくれるツールを、マンジーニは"Design Plan. A Tool for Organising the Design Activities Oriented to Generate Sustainable Solutions(PDF)"というドキュメントのなかでいくつか紹介してくれています。

また、Service Design Toolsというサイトでも、マンジーニらが開発したインタラクションテーブルのようなダイアグラムも含め、文字どおりサービスデザインに使える様々なデザインツールが紹介されています。

このようなデザイン思考的な考え方を支援するツールを積極的に活用しながら、従来の消費主義的なアプローチの経済モデルの市場を書き換えるようなデザインを行っていくことが、これからの新しい参加型社会を実現するために必要なことだと思います。昨年に引き続き、大きな変化が続きそうな2012年を積極的に変革していくためにもデザイン思考のアプローチの活用の場はますます増えてくるのではないでしょうか。

関連エントリー

関連サービス


この記事に関する皆さんの意見や感想をぜひThink Social Facebookページでお聞かせください。




お問い合わせ

貴社サービスの体験価値の向上や、新しい革新的な公共サービスの立ち上げのサポートなど。
私たちにお手伝いできることはありませんか?
何かお困りのことなどございましたら、お気軽に下記リンクよりご相談ください。

≫お問い合わせフォーム



このエントリーをはてなブックマークに追加 

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://labo.coprosystem.co.jp/cgi-bin/MtOS5/mt-tb.cgi/134