ペルソナ(ユーザーモデル)を作る

4月 9th, 2010

ペルソナとは、人びとの生活の現場での観察や調査会場などでのインタビューから知り得た、人びとの生活行動を元に作成する、仮想のユーザーモデルです。

人間中心のデザインではよく使われる手法のひとつであり、私も著書『ペルソナ作って、それからどうするの?』のなかで、ペルソナを用いたデザインの方法の一連の流れを消化しています。

ペルソナとしてターゲットとなる人びとの人物像を表現することで、製品やサービスのターゲットとなる人びとがどんな人で、普段の生活で何を目的としてどんな行動を行っているか、その行動によってどんな結果を期待しているのかを明確していきます。これは「ISO13407:インタラクティブシステムのための人間中心設計プロセス」で紹介したプロセスの中の「ユーザーと組織の要求事項の明示」の工程にあたります。

デザインに関わるメンバーは、ペルソナを作ることで、人びとの生活のなかでの製品/サービス利用機会やその利用目的・利用する際のゴールを明らかにすることができ、背後に隠れたターゲットのウォンツの検討が可能になります。

KJ法の結果から人物像を描くための要素を抽出

ペルソナを作成する手順は、ざっと以下のような3つのステップで行われます。

  1. ターゲットセグメントである人びとの生活行動を「コンテキスチュアル・インクワイアリー」などの手法を用いた観察&インタビューによる調査で明らかにする
  2. 調査で知り得たデータを「ワークモデル分析」や「KJ法」などの手法を用いて、分析・解釈をする
  3. 分析・解釈を経て抽出したユーザーグループの特徴、行動の傾向を元に、ユーザーモデルとしてのペルソナを表現する

1.と2.の流れに関しては、すでに「コンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問法)」や「ワークモデル分析:行動とコンテキストの関係を明示する」、「KJ法で質的データの分析を行う」といったエントリーで紹介していますので、そちらを参照いただくとして、ここでは繰り返して述べることはしません。ただし、そうした手順を踏んだ上ではじめて具体的にユーザーの傾向をモデル化するペルソナの作成に入れるのだということは、ここであらためて確認いただければと思います。

さて、前回の「KJ法で質的データの分析を行う」というエントリーでは、KJ法を行った結果として下の写真のイメージを紹介しました。
調査で知り得た人びとの行動に関するデータを類似する内容ごとにグループ化し、そのグループごとに傾向を要約した形の表札をつけて整理することで、そのユーザーグループの傾向が見えてきます。

こうして調査データをKJ法を使って分析・解釈した結果をもとに、ペルソナを描くための要素を抽出していくのです。具体的には上の写真のように、KJ法では「表札付け」という作業で、手書きで各データグループの傾向をまとめた解釈をどんどん書き込んでいきますが、それがペルソナを作成する際にユーザーグループの特徴をあらわす要素となるのです。

今回はその要素をあらためて整理するために、下の写真のようにいったんデータ化しています。

これは前回紹介したKJ法の「文章化」という作業にも相当します。図式化しただけでは見えない関係性が文章として書き直すことで見えてきたり、図で書いた関係性のおかしなところに気づいたりしますので、この工程も実は以外と大切です。

人物像を描く

ここまでがペルソナを描き始める前の準備段階です。人物像を描くための要素を抽出しておくという準備が終わったら、いよいよ具体的な人物像としてペルソナを表現していく作業をはじめます。

ペルソナを表現する作業は1人でもできますが、私はワークショップ形式でのグループワークでの作成をおすすめしています。1人で作業をするよりも、グループで作業をしたほうが視点が偏らず、かついろんな方向から人物を考えることができるという利点があるからです。

グループワークでペルソナを作成する場合はまず、下の写真のような台紙を作るといいでしょう。

あらかじめどんな情報の記述により、ペルソナの表現を行うのか、骨格となる構造だけを見出しとして抽出して表形式の台紙を作っておくのです。どんな見出しが必要かは、すでにKJ法でユーザーグループの行動全体の構造が見えているはずですので、そこから抜き出せます。

こうした準備をした上で、具体的な人物像のイメージをグループで議論しながら決めていくのです。3-5人のグループで、ひとりが司会者、ひとりが書記となって、必要な項目を埋めていきます。

そんな議論を経て完成したペルソナは、こんな感じでデータ化するとよいでしょう。

ペルソナの役割/目的/ゴールを明らかにする

ペルソナに記述するべき内容に決まりはありませんが、以下のような事柄はぜひ記述に含めたいところです。

  • 役割:ペルソナが製品/サービスを利用する時、利用しようと考える時、ペルソナにはそうしなければいけないどんな理由があるのか、役割があるのか?
    cf. 「小学生になる前の小さな子供に毎日、朝昼晩の三食のご飯を作って食べさせてあげなくてはならない」、「毎日の家から会社までの45分間の通勤時間の空いている時間に、自分自身を退屈させず、かつ時間を有効に過ごせる手段を与えなくてはいけない」など
  • 目的:ペルソナは何のために製品/サービスを利用した行動をするのか?
    cf. 「朝は保育園に行く時間までに食べさせなくてはいけないし、夜もお腹が空いたとうるさいので、毎日決まった時間に食事を作り終える必要がある」、「会社で仕事中はプライベイトなことでインターネットは見れないし夜もなかなか時間がとれないので、通勤中にできるだけプライベイトな情報収集をしておく必要がある」など
  • ゴール:ペルソナは製品/サービスを使うことで具体的にどんな結果を得たいのか?また結果を得るプロセスで期待するもの/忌避したいものは何か?
    cf. 「とにかく時間通りに子供が食べてくれる料理を用意する。自分も仕事から帰ってきて疲れていることもあるのでできるだけ手間がかからないよう簡単に」、「毎日チェックしているWebサイトがいくつかあるので、通勤時間中にそのチェックを効率的にし終えたい」など
  • 利用時の前提条件/制約条件:ペルソナが自身の役割に応じた目的で、製品やサービスを利用してゴールにたどり着こうとする際、どんな環境要因やペルソナ自身の内定条件が前提条件や制約条件となりうるか?
    cf. 「下の子が小さくて、時々、部屋の中のものを壊したりすることがあるので料理中も目が離せない」、「電車のなかは超満員ほどではないが混んでいるので片手ですべての操作をしたい、手が小さいのでなるべく小さく軽い方がいい」など

ペルソナはもともと、インタラクションデザイナーであるアラン・クーパーが提唱している人間中心のデザインの1つの手法であるゴールダイレクテッドデザインのなかで用いられる手法です。
ゴールダイレクテッドデザインは、その名の通り、ユーザーをゴールにダイレクトに(使い方がわからず迷ったり、求める結果と違う結果が得られたり、動きがもたもたしていて苛々させられたり、といったことがなく)導くためのデザインをすることを目指すデザイン・アプローチです。

ですので、上に挙げたリストの中でも、何がペルソナにとってのゴールなのかを明らかにすることが最も重要になります。また、ペルソナにとってのゴールは、その人がどんな役割があると自分で認識しているか、その役割の目的は何かということにも関係しています。目的があって、その具体的な達成を示すものがゴールです。そして、ペルソナを取り巻くさまざまな環境要因、ペルソナ自身の知識や経済的制約がペルソナがゴールに至る道程を妨げることもありますので、製品/サービスのデザインを考える際にもそうした点を考慮する必要があるでしょう。

このようにペルソナの記述を考える時には、その製品/サービスはユーザーにとって何であり、それを使うユーザーはどんな役割をもった人なのかということと同時に、ユーザーは具体的にどんなゴールにたどり着きたいのかを明らかにすることが必要です。
それがペルソナで表現すべき事柄であり、それが明らかになることで、ペルソナが何を欲しているか(ウォンツ)を考えることができるようになるのです。

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KJ法で質的データの分析を行う

4月 2nd, 2010

人間中心のデザインでは、コンテキスチュアル・インクワイアリーのような観察&インタビューを行い、人びとの生活のなかの行動の把握を行います。生の現場で、人びとの行動を観察することで、その行動が行われる外的環境や内的動機がどのように行動に影響を与えているのかを把握するのです。その行動と環境の関係性のなかに、人びとの行動を非効率なものにしていたり、あまり快適ではない体験を与えているものがないかを見つけることで、人びとの生活や体験をよりよいものにするために必要なイノベーションの鍵を得るのです。

ところが、この観察&インタビューによって得られた、質的データというのは、アンケート調査などによって得られた定量データとは違って、コンピュータを使った集計や分析をすることができません。数としてボリューム(量)として扱えるものでないため、基本的には人間が読み解く必要があります。たとえば、90分のインタビューを10名に対して行ったとしたら、そこで得られたデータは結構な量ともなり、単純に発言録を読むだけでも時間がかかります。

また、おなじ質的データでも、構造化インタビューによって得られた定性的なデータと異なり、性質さえ不定なデータであるため、調査で用いた構造をフレームワークとして用いて調査対象者間の比較ができるとも限りません(注:コンテキスチュアル・インクワイアリーなどの観察調査も定性調査と呼ぶこともありますが、厳密には、非構造化インタビューが基本ですので、定性的な調査ではありません)。

それゆえ、観察&インタビューで得られた質的データの分析には、手間も必要ですし、分析のための方法、その方法を有効に活用するためのスキルも必要です。
先に紹介したワークモデル分析がその分析手法の1つですし、今回紹介するKJ法もまた質的データの分析法として知られているものです。

KJ法

KJ法は、文化人類学者である故・川喜田二郎氏が生み出した発想法のなかでも用いる思考ツールの1つです。

文化人類学でもフィールドワークによる調査を通じて膨大な質的情報の収集が行われます。とうぜん、そうした調査から得られたデータから、調査対象の民族の生活文化の特徴やそのコミュニティでの問題点などをいかに浮かび上がらせるかが、研究者にとっての課題でした。

そうした課題を解決する方法として、川喜田二郎氏が生み出したのがKJ法です。

KJ法は、質的データをアブダクションと呼ばれる推論形式を用いながら、データの全体像/構造を把握するのが目的です。
推論形式としては、一般に演繹と帰納の2つが知られていますが、アブダクションはそれに続く第3の推論形式です。帰納が観察データに基づき一般化を行う推論形式であるのに対して、アブダクションは観察データを説明するための仮説を形成する推論形式です。
よくKJ法と称して、単純に情報の整理・分類の作業だけを行っているケースがよく見られますが、本来のKJ法は膨大な質的データをアブダクションを働かせながら、データ(つまり調査対象となった人びとの生活行動)の全体を説明しうる仮説を生みだすための手法です。

KJ法の作業は以下のような流れで行います。

  • 単位化
  • グループ化
  • 表札付け
  • 図式化
  • 文章化

図にすると、こんな感じになります。

実際に、KJ法を行った作業風景をお見せしながら、この作業の流れを簡単に追ってみることにします。

情報の単位化

まず単位化は、調査データをまとめた発言録や映像情報から、行動の要素や行動が行われた環境を示した記述を、小さな情報の単位として切り出す作業です。

今回は、下の写真のような感じで、パソコンを使ったコピペ&文章表現の見直しを行ったデータを、裏がポストイット状になった紙に出力して、切ったものを、単位化した情報として使っています。
誰か1人がまとめて情報の単位化をするような場合は、こういう方法のほうが効率的です。

もちろん、この情報の単位化は、ポストイットに手書きで抽出する形でもかまいません。
ポストイットに手書きした方が文字が読みやすかったり、書いている際に情報が頭にはいるという利点もあります。

情報のグループ化〜表札付け〜図式化

この単位化した情報をそれぞれ見比べながら、類似する情報同士をまとめるのが、グループ化の作業です。
このとき、似ているもの同士を小さなグループとして集めることをせずに、はじめから大きなカテゴリーに分けようとしてしまったり、人びとの行動のパターンの類似ではなく、書かれた言葉の類似で分類してしまったりという間違いを犯しがちですが、それをしてしまうと、KJ法はうまくいきません。

グループ化するというのは、まさに小さなアブダクションを働かせる推論にほかなりません。アブダクションは説明を生みだす推論ですから、説明仮説も考えることなくグループを作っても仕方ありません。

そして、その説明仮説を言葉にするのが、表札付けにほかなりません。複数のデータを集めたら、なぜ、それらの情報を集めたのかを示した要約が表札に書かれている必要があるのです。
グループ内の情報を要約した文章ではなくカテゴリー名のような単語で表札をつけてしまったり、作ったグループに含まれるデータに書かれた具体的な要素を含んだ表札をつけなかったりするのは、間違った表札付けです。

途中経過の写真を見てみましょう。すこしずつグループ化と表札付けが進んでいます。
今回は、図式化の部分も平行して進めました。図式化もまたデータ間の関係性を説明する仮説の表現です。

さらに進んだ段階。

はじめはバラバラだったデータも、グループ化、表札付け、図式化で、きちんと小さな説明仮説を作りながら進めていくと、徐々に全体的な関係性も見えてきます。ここまでくると、なんとかまとまりそうだな、と、すこし気が楽になってきます。

KJ法からペルソナへ

完成形の全体像はこう。
無理矢理、1枚の模造紙に詰め込んでしまったので、図式化による関係性の表現がわかりにくくなってしまったところが失敗。でも、説明仮説自体ははっきりできたので、目的はぎりぎり達したか、と。

角度を変えて、すこし近寄ってみると、こんな感じです。

見えづらいですが、ここで手書きで書き込んでいるデータの解釈が、このユーザーグループのペルソナの特徴として採用されるわけです。

ですから、この時点の解釈の表現には、このユーザーグループの特徴を明確に示した具体的な言葉が盛り込まれている必要があるわけです。そうでないと、この解釈を抽出して並べた状態で読んでみた際に、まったく人物像が浮かび上がってこないということになってしまいます。
とうぜん、それではターゲットユーザーのモデルとしてのペルソナの役目を果たしませんよね?

というわけで、このKJ法によるユーザーグループの特徴の解釈、分析という作業が、人間中心のデザインの1つ目の山場ということになります。

次回は、この結果をいかにペルソナに変換するかを、紹介してみることにします。

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二次的理解:体験を拡張する

3月 30th, 2010

前々回のエントリー「ISO13407:インタラクティブシステムのための人間中心設計プロセス」でもISO13407に代表される機能主義的な側面の強い人間中心設計を批判し、より広範囲な視点で人間にとっての意味=価値にポイントをおいた人間中心のデザインを提唱している、クラウス・クリッペンドルフは『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』のなかで、

人間中心のデザインは、基本的には、他の人のためのデザインであるため、それは二次的理解に基礎づけられるべきである。

と言っています。
また「誰か他の人の理解を理解することは、理解の理解」であるといい、それを「二次的理解」という用語で表現しています。

クリッペンドルフは、人間中心のデザインに関わるデザイナーには、「誰か他の人の理解を理解する」という二次的理解が必要だというのです。

なぜ二次的理解が必要なのか?

クリッペンドルフはまた、

二次的理解は、ポスト工業時代のデザインの必要条件である。

とも言っています。

それまで社会的に満たされていなかった機能を技術中心のイノベーションにより生みだす工業時代のデザインであれば、デザイナーは自身の不足や不満をベースに思考することで、機能性=意味合いを形に落とし込むことができました。

自分自身の使う物がどうあって欲しいか、自分自身の生活に関わる物にどんな不満があるかをつかむのは、そうしたことを普段から意識して過ごしているのであれば、それほどむずかしくはありません。
デザイナーあるいは商品の企画者は、自身の人生の体験を振り返ってみることで、何が求められるかを捉えることができ、それを具体的な商品へと落とし込むことができました。

ところが、技術中心のイノベーションだけでは、生活に革新をもたらすアイデアの創出がむずかしくなったポスト工業時代の現代においては、観察やインタビューなどの手法を用いて、人びとの生活行動やその環境そのもののなかに、未来を切り開くイノベーションの種を探る必要がある。

物をデザインするのか? 体験をデザインするのか? です。
体験をデザインするためには、ターゲットとなる人びとの体験に着目しないといけない。

つまり、それはクリッペンドルフがいうデザイナーによる他者の理解=二次的理解が必要であるということであり、デザイナーは自身の体験だけに頼っていてはダメで、他者である他の人びとの生活体験を積極的に理解しなくてはいけないということです。

顧客/ユーザーの立場に立つ

よく「顧客/ユーザーの立場に立って考える」と言いますが、ほとんどの場合、他人の言動を客観的にみるだけで、結局は自分の経験から生まれたフレームワークに当てはめて、他人の言動を判断してしまうことが多いと思います。それはクリッペンドルフのいう二次的理解とは似て非なるもので、それでは人間中心のデザインの役には立ちません。

人間中心のデザインの基礎として必要される二次的理解は、まさに顧客/ユーザーの建っている場所に自分が立ってみるということです。それには顧客/ユーザーが結果としてみせた言動だけを見たのではだめで、顧客/ユーザーをそうした言動に至らせた行動の背景としての立場・環境そのものを理解する必要があります。

行動の背景を見ずに、単に行動だけを客観的に見てしまうと正しい理解ができない場合が多いのです。

行動だけでなく、行動の背景を知る

例えば、普段接点のないおなじ会社のある社員が、まわりはみんな忙しくしているのに、自分だけいつも定時をすぎるとそそくさと帰ってしまうのが気になっていたとしましょう。日中もやたらとプライベイトの携帯電話が鳴って、外に電話しにいったりする。なんの背景情報もない状態なら、仕事に対する態度としてどうなんだろう?と疑念を抱くかもしれません。

ところが、ほかの同僚によく話を聞いてみると、その人のお母さんが重い病気だという。ほかに世話をする人がいなくて、毎日お母さんの世話をするために早く帰っているのであるとしたらどうでしょう? 途端にその人に対する印象が一変するのではないでしょうか。

そうした背景を知ることでようやく「相手の立場に立つ」ことがすこしできたわけです。
自分の母親が病気だったらどうだろうか、と自分でも相手と同じ状況に立ったところを想像できるようになってはじめて、相手の理解を理解するという二次的理解ができる地点に立てる。人間中心のデザインに求められる二次的理解は、そのように単に顧客/ユーザーの言動を知るだけでなく、何が顧客/ユーザーにそのような言動に向かわせるのか、その背景にある因果関係や状況を知ることなのです。

自身の体験を拡張する

人間中心のデザインをする人も、顧客/ユーザーの言動そのものを直接変化させることはできません。ただ、顧客/ユーザーの言動の原因となっている環境を変えることはできるかもしれない。顧客/ユーザーにとって生活の障害となっている問題を、人びとが暮らす環境の側に見つけ出すことから、人間中心のイノベーションのデザインははじまります。

ですので、コンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問法)などの行動観察調査を行った場合も、単に調査をして、客観的に生活者の行動を把握しただけでは意味がないのです。
ワークモデル分析やKJ法を用いて、質的データの解釈、分析を行うのは、あらためて生活者の行動とその行動が行われた背景の関係性を捉えなおすことが必要だからです。

その目的はひとことでいえば、自分自身の体験を拡張することです。

観察調査データの解釈、分析によって見えてきた、生活者の行動の場に自分自身を置いてみることで、自分ならその場でどのような体験をし、どのような感情が起こるかを想像するのです。

主観的に見る

そのために用いるのがワークモデル分析KJ法といった分析手法であり、それゆえ、それらの手法使った解釈、分析作業というのは、実は客観的な視点で見る以上に、自分自身が体験するように主観的に見ることが求められます。

主観的に見ることが求められるがゆえに、その作業は誰かに結果だけを教えてもらうということはできません。
自分の体験は誰かにもらうことができないように、自分の体験を拡張するという二次的理解への道もやはり、自分自身でデータの解釈、分析作業のなかで切り開いていくしかないのです。
正直、誰にでもできることではないですし、誰がやってもそれなりに時間がかかります。体験に関わることなので時間を惜しめばそれは別の体験になってしまう可能性があるから、安易な効率化は間違いの元でもあります。

体験を重視し、他者の体験の理解に近づくために自らの体験を拡張する。
それが人間中心のデザインで求められる本来の調査データの分析法なのです。

最後にもう1つ、クリッペンドルフの言葉を。

他人の意見を聞くことなしに自分で行う孤高の才能あるデザイナーは急速に過去の人となりつつある。

人間中心のデザインを使った商品・サービス開発については気軽にご相談を。お問い合わせはこちらです。

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人間中心設計プロセスの各段階で用いる主な手法

3月 26th, 2010

さて、前回の「ISO13407:インタラクティブシステムのための人間中心設計プロセス」では、あらためてユーザビリティ(使える/使いにくくない)の高い製品/システムをデザインするために用いられる標準的なデザインプロセスとしての人間中心設計プロセスについて紹介しました。

そのデザインプロセスは、次の5つの段階からなっています。

  • 人間中心設計の 必要性の特定
  • 利用の状況の 把握と明示
  • ユーザーと組織の要求事項の明示
  • 設計による 解決案の作成
  • 要求事項に対する設計の評価

この各段階のそれぞれの目的と、その目的を達成するために用いる手法をまとめると、次の図のようになります。

人間中心設計の手法の応用

前回も紹介したとおり、このデザインプロセスはもともと、コンピュータが内蔵された製品/システムのユーザビリティの向上のためにまとめられたものですが、今ではそれ以外の分野の製品/サービスのデザインにも応用されています。

ターゲットユーザーをモデル化する手法であるペルソナは、さまざまな分野の商品開発のための企画やマーケティングコミュニケーションの企画のためのターゲットとなる人びとの生活行動や価値観を明示するための手法として活用されています。

また、アメリカ・パロアルトの拠点を置く世界的に有名なデザインコンサルティングファームIDEOでは、エスノグラフィのような行動観察やストーリーボード、プロトタイピングなどの人間中心設計の手法を用いて、数々のイノベーティブな商品/サービスを生みだしています。

まずは標準的なプロセスを体験することから

これらの手法の1つ1つは必ずしも目新しい手法ではありませんが、与えられた課題に対して適切な手法を組み合わせてデザインプロセスを設計することで、なんとなく個々人の勘や経験値、あるいは数値的データだけを元にした分析では得られない新しい発想やそれを実現するための具体的なアイデアを創出することができます。

どういう課題にどのように手法を組み合わせるのが適切かは、経験に依るところも大きいので、単純に上の図の標準的なプロセスに従えばよいというわけではありません。しかし、標準を知ることでこそ、応用もできるようになるというものです。

自社製品やサービスの開発プロセスに、人間中心設計の導入を検討されている方は一度はぜひ標準的なプロセスを体験してみることをおすすめします。擬似的な体験という形では、弊社でも「人間中心のデザイン体験ワークショップ」を用意しておりますので、ぜひご活用ください。

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ISO13407:インタラクティブシステムのための人間中心設計プロセス

3月 25th, 2010

これまで「人間中心のデザイン」について書いてきましたが、今回はその元になった考え方ともいえる「ISO13407:インタラクティブシステムのための人間中心設計プロセス」についてあらためて紹介します。

ISO13407:インタラクティブシステムのための人間中心設計プロセスとは

ISO13407:インタラクティブシステムのための人間中心設計プロセスは、イギリス・ラフボロー工科大学のブライアン・シャッケルを中心とするグループが長年行ってきた人間工学系の研究を基本として1995年にISOに提案、1999年に国際規格化されたものです。

その名の通り、コンピュータが内蔵された各種の機器=インタラクティブシステムを対象に、その製品・システムのユーザビリティの向上を目的としたデザインプロセスです。
このプロセスに従って設計作業を行うことで、設計者は想定される対象ユーザー層との対話をデザイン過程のなかに取り込むことができ、利用者の立場・視点にたったデザインが可能となります。

“Context of use” がキーコンセプトとなったISO 9241-11のユーザビリティの定義(「特定の利用状況において、特定のユーザによって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、ユーザの満足度の度合い」)を下敷きにしているため、設計者が製品やシステムのデザイン時に、利用者の利用状況にフォーカスすること、製品・システムと使う人との相互作用(インタラクション)をひとつのシステムとして捉えて設計することを求めます。

そのため、下図のような形で、利用者が商品を利用する状況を理解することからデザインプロセスをスタートし、対象者たちの具体的な利用状況のなかに隠れたニーズを発見し、その解決案としてのデザイン案を作成・評価を繰り返すことを基本的なプロセスのなかに盛り込んでいます。

人間中心設計プロセスの5つの段階

上述の図のように、ISO13407:インタラクティブシステムのための人間中心設計プロセスは、下記のような5つの段階を経て、最終的に「ユーザーと組織の要求を満たす」製品/システムの実現を目指します。

人間中心設計の 必要性の特定
デザイン活動のための哲学(「人間中心設計による何を実現するのか?」)と、ヴィジョン(「誰に、どんなものを提供することで、それを実現するのか」に関する仮説」)を検討。プロジェクトメンバー間での共有を行う。
利用の状況の 把握と明示
想定されるターゲットユーザー層の現状の生活における製品/システムの利用状況を把握する。把握のための調査には、エスノグラフィやコンテキスチュアル・インクワイアリーのような行動観察を主体とした質的調査法を用います。
質的データの分析・解釈では、ユーザーの行動とその背後の環境的要素との関係性の分析が中心になります。ワークモデル分析KJ法などの手法を用いてデータを分析し、利用状況を図解や文章を使って明示します。
ユーザーと組織の要求事項の明示
利用状況の把握により明らかとなった、ユーザーの利用環境やそれに応じた利用の方法や現状の問題点から、ユーザーセグメントごとにどのような要求事項があるかを検討します。要求事項の検討は、顕在的なものだけでなく、潜在的なものも含めることが必要です。
その際、ターゲットユーザーのモデル化にはペルソナ法を用います。また、シナリオ法やストーリーボードのような手法を用いてペルソナの潜在的な期待に応えるための製品/システムのアイデアを検討します。
設計による 解決案の作成
前の段階で検討を行った各ユーザーセグメント(ペルソナ)ごとの利用状況とそれに対応した期待と、シナリオやストーリーボードの形で表現した製品、システムのラフイメージを元に、具体的な製品、システムのデザインを行う段階です。
この段階においても、デザイン作業は常にユーザーとの対話を忘れずに、製品やシステムを単体でデザインするのではなく、こういうインターフェイスにした場合、ペルソナは使い方がわかるだろうか、こうしたインタラクションをデザインした場合、ペルソナはイライラせずに効率的に利用できるかと、シミュレーションを行いながら具体的なデザイン案・設計案の検討を行うことが必要です。
要求事項に対する設計の評価
前の段階で、ユーザーによる利用を想定したシミュレーションを行いつつ、デザイン案の検討を行いましたが、本当にそれがユーザーに使い方がわかるか、効率的に不快を感じることなく使うことができるかは、実際のユーザーに使ってもらって試してみないとわかりません。ユーザーテスト法などを用いて、ユーザーの要求事項と実際のデザイン案とのギャップがないかを検証するのがこの段階です。
ユーザーテストは完全にデザイン案が固まる前の早い段階で繰り返し行うことで、ユーザーとのギャップを徐々に埋めていくことが可能になります。

この5つのプロセスの最初の段階(「利用の状況の 把握と明示」)で用いるのが、これまで紹介してきた「コンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問法)」、「ワークモデル分析」といった調査・分析の手法です。

人間中心設計プロセスに対する批判

こうしたインタラクティブなシステム(必ずしもコンピュータが内蔵されているものに限定する必要はありません)に対するユーザビリティの向上を目指す、人間中心設計プロセスですが、これに対する批判もあります。

例えば、『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』という本で「人間中心のデザイン」の必要性と手法を紹介しているクラウス・クリッペンドルフも、同書のなかで次のように書いています。

ISOは人間工学の伝統に由来するので、人間中心性を正当に評価しておらず、(外在的な)特定の目的をユーザビリティーの公式的基準の鍵としている。これは、内発的な動機付けを排除してしまうもの、ないしはそういった動機づけを「積極的態度」に格下げするものである。

クリッペンドルフの考える人間中心性は、必ずしも製品の機能的な意味=価値だけにフォーカスしたものではなく、より広範囲に人間にとっての意味=価値に貢献するものとしてデザインを捉えたものです。そのため、ISOの機能主義的側面が強い「人間中心設計」の考え方に対しては、先の引用のような批判をしているのです。

このクリッペンドルフの指摘はもっともだと考えます。私が「人間中心設計」ということばではなく、あえて「人間中心のデザイン」としているのも、ISOの機能中心主義的な人間中心性が除外している部分が、実は書品やサービスのデザインを考えるうえでは非常に大事なものであると考えるからです。
その意味で、私が人間中心のデザインで商品やサービスの企画・デザインのお手伝いを行う場合は、人間の価値構造の理解を行うための「イメージカードソート法」などによる調査を、上述のプロセスと平行で行うことで、機能性に偏りがちな人間中心設計プロセスの弱点を補うようにしています。

長くなりましたので、このあたりは次回以降もすこしずつ紹介していけたら。

デザイン思考の仕事術を新人研修にいかが?

3月 12th, 2010

3月になってバタバタしており、すこしこのブログの更新も滞っておりますが、日に日に温かくなる陽射しを受けると、もうすぐ多くの会社に新人が入社してくる季節なんだなと思います。

弊社の社内でも仕事の忙しいこの時期に、新人研修の準備を平行して進めているスタッフがいます。
それと同じようにこの時期は、新しく入社してくる新人にどんな研修を用意するかとお悩みの人事担当者も多かったりするのではないかと思います。

私も時々、自社社内のスタッフ向けの研修や、クライアント様向けの研修その他、外部の研修などに講師として研修の企画からお手伝いさせていただくことがありますが、大学や大学院を卒業してきたばかりの新人が興味をもって積極的に取り組んでもらえる研修を企画・実施するのはなかなかむずかしいものです。

デザイン思考の仕事術

僕は昨年『デザイン思考の仕事術』という本を出させていただきましたが、その本ではデザイナーの問題発見・問題解決の方法を、より広い分野の仕事に活かす方法を紹介させていただきました。

  • 人びとのウォンツと技術の関係を取り持つプランはどうしたら生みだせるか
  • 人びとのニーズに合った顧客価値と市場機会を創出する事業戦略をいかに組み立てるか

といった、ビジネス上の問題解決に、デザイナーの感性と手法を用いるのが、デザイン思考の仕事術です。

具体的には、これまでも紹介させていただいたような、

といった手法を用いて、人びとのウォンツを把握したり、

  • ペルソナ/シナリオ
  • ユーザー環境モデリング
  • ペーパープロトタイピング

などの具体的な問題解決策としてのデザインを生みだす手法を、ブレインストーミングなどのグループワークの手法と組み合わせながら、試行錯誤(トライアンドエラー)を繰り返す中で、最適解に近づいていきます。

感性を研き、手法を身につける

もちろん、こうした手法がどういうものかがなんとなくわかれば、すぐにデザイン思考の仕事ができるようになるわけではありません。先にも書いた通り、「デザイナーの感性と手法を用いるのが、デザイン思考の仕事術」です。手法だけではだめで、もうひとつ感性を養う必要があります。感性を研くことと手法を身につけることが同時に行われることが望ましいわけです。

ことばで「望ましい」と書くのは簡単ですが、実行するのは大変です。学ぶ側にとっても、教える側にとっても。

教える側にしてみれば、本を読んでもらったり、座学で話を聞いてもらったりするだけではどうにもなりません。ワークショップなどの体験の場で実践的に感じてもらうほうが、デザイン思考の仕事とはどういうものかを感じ取ってもらいやすい。
それは学ぶ側からみても同じで、本を読んだり話を聞いたりしただけではイメージでできないことが、実際に自分でやってみることでわかったりします。どこがむずかしいか、自分に何が足りないかということも含めて。

そうした教育の場、学びの場を提供するために「人間中心のデザインの手法に関する教育」というメニューを用意しています。先にあげたワークモデル分析やペルソナ/シナリオ、ペーパープロトタイピングなどを実際に体験していただくメニューです。詳細はこちらのページをご確認ください。

デザイン思考の初心者向けにご用意しているメニューですので、春から入社してきた新卒スタッフの研修メニューの1つにも有効かと思います。基本は2日間コースですが、ご要望に応じて時間のアレンジは可能です。

ご興味のある方はお気軽にご相談ください(お問い合わせはこちら)。

ワークモデル分析:行動とコンテキストの関係を明示する

3月 2nd, 2010

前回は、生活者の行動の背後に隠れた潜在的なウォンツを明らかにする質的調査の手法として、人間中心のデザインで用いるコンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問法)という調査手法について紹介しました。

コンテキスチュアル・インクワイアリーは、師匠と弟子と呼ばれる質問法を用いて、生活者が日頃行っている行動とその背景を詳細に、具体的に、明らかにする調査方法です。生活者が普段行っている行動が、どのような背景(=コンテキスト)で行われているかをあぶり出すことで、生活者の行動や体験そのものをリデザインする糸口を見つめることが、調査の目的です。

行動とコンテキストの関係をリデザインする

生活者の現在の行動を形作っている要因そのものを変化させ、生活者にとってより価値のある体験を生みだすためのイノベーションを創造すること。
それが人間中心のデザインを行う理由の1つです。

それゆえ、生活者の暮らしの現状を把握するためのコンテキスチュアル・インクワイアリーでは、しっかりと生活者の行動とそのコンテキストの関係性を明らかにすることが大事です。
「デザインとは関係である」と言ったのは、20世紀を代表するグラフィック・デザイナーであり、デザインの教育者でもあったポール ・ランドですが、モノではなく、ユーザー体験をデザインするアプローチである人間中心のデザインも同様に、人びとの行動とその背景にあるコンテキストの関係性を理解し、その関係性をどうリデザインすれば、人びとの日常の体験がより良いものとなるかを考え、その実現を目指します。

この行動とその背後にあるコンテキストの関係性がうまくひも解くことができないと、どこを改編すればよいのかがわかりません。それゆえに生活者の現状を調査するコンテキスチュアル・インクワイアリーや、調査で集めたデータを分析し解釈するワークモデル分析やユーザー環境モデリングなどの作業が、デザインにおける問題発見の段階では非常に重要なのです。

行動とコンテキストの関係を解釈するワークモデル分析

コンテキスチュアル・インクワイアリーで収集した生活者の行動に関するデータは、ワークモデル分析という手法を用いて解釈し整理します。

生活者がある目的で特定の行動を行う際のコンテキストを、

  • その行動が行われた際、他の人とどのようなコミュニケーションが成されたか
  • その行動はどのような手順で行われたか
  • どのような物理的環境で行動が行われていたか
  • どのような文化的コンテキスト(組織のルール、人間関係etc.)の下で行動が行われたか
  • 行動を行う際、どのような道具が用いられ、どのような人工物(メモや写真撮影etc.)が作成されたか

といった5つの視点で考察し、生活者の行動にどんな要素がどんな形で影響を与えていたかを明らかにします。

この分析作業は、ワークモデル分析の名のとおり、コンテキスチュアル・インクワイアリー調査で集めたデータを、図式化して解釈する形で行います。特定の一連の行動を上記の5つの視点で5つの図にするのです(必ずしも、すべてのケースで5つの視点全部を使うとは限りませんが)。

インタープリテーション・セッション

こうした作業を、調査対象とした各生活者単位で行います。10名に対して、コンテキスチュアル・インクワイアリー形式でのデプスインタビューを行ったのなら、10名それぞれに対し、図式化による解釈を行います。各調査対象に複数のシチュエーションでの行動を聞くケースが多いと思いますので、1名に対しても複数の図式化の作業を行うことになります。

通常、調査に立ち会う人は複数いると思いますので、その人たちのあいだで調査対象者の行動に対する共通の解釈をつくることも大切です。ですので、このワークモデル分析の作業は通常、インタープリテーション・セッション(文字通り解釈のためのセッション!)と呼ばれるワークショップ形式で行います。

調査でインタビューを担当したモデレーターがインタビューの結果を再現的に話しながら、ワークショップに参加している他のメンバーが、5つの視点でのワークモデル図を描きます。参加者が5人いれば、1人が1つの視点という形で担当を振り分けると効率的です。

グループワークで自分たちの「当たり前」を壊す

もちろん、作図をしながら解釈を共有するための議論も行います。作図をすることではじめて気づく行動とコンテキストの関係性も多いはずです。1人では気づかないことも、複数人で議論を行いながらモデル化していく作業をすると、発見できます。

こうしたグループワークによる発見やアイデアの創発を促すよう、作業過程をデザインすることも、人間中心のデザインによるイノベーションを成功させる1つのポイントです。日常では「当たり前」と思って誰も気にも留めないようなコンテキストの背後に、体験のリデザインにつながるようなイノベーションの糸口を発見するには、1人1人の固定観念を壊すような創造的なグループワークの力が必要です。

他人や社会を変えるようなイノベーションを見つけるためには、まず自分たち自身が変わらなくてはいけません。そうした自分たちの「当たり前」を壊す発見をする場が、インタープリテーション・セッションというワークショップです。

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コンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問法)

2月 26th, 2010

人間中心のデザインで用いるユーザー行動観察&インタビューの手法の1つに「コンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問法)」と呼ばれる手法があります。

インタラクションデザインを専門とするHoltzblatt, K.とBeyer, H.が考案した「コンテキスチュアル・デザイン(Contextual Design)」と呼ばれる人間中心のデザインのプロセスの中で用いられる手法で、ユーザーの利用状況を把握するための調査手法です。
コンテキスチュアル・デザインは、商品やサービスが用いられる文脈=利用のシチュエーションにフォーカスを当てることで、その文脈における課題や隠れた要求を見いだし、文脈そのもののリデザインも含めたイノベーションの実現を目指すデザイン・アプローチです。

具体的な利用状況の再現によりユーザー行動を把握する

前回の「経営戦略として取り組む人間中心のデザイン」でも書かせていただいた通り、潜在的な顧客要求の発見から新たな市場機会を生み出す人間中心のデザインのプロセスでは、言語化・意識化されないターゲットの潜在的な要求を探り出すリサーチ手法が必要となります。
利用の文脈=シチュエーションに焦点を当てて観察&インタビューを行い、把握するコンテキスチュアル・インクワイアリーは、言語化・意識化されないターゲットの潜在的な要求を探り出すことを目指す人間中心のデザインにおける調査においては非常に有効で、用いられることの多い調査法の1つです。

「ターゲットの利用の文脈=シチュエーションに焦点を当てる」ために、インタビュアーは、調査対象となる人から、類型化された行動や一般化された話を聞くのではなく、実際に対象者が行った特定の行動に関する話を具体的に聞きます。

例えば、ポータブルミュージックプレイヤーで音楽を聴くユーザーの具体的な利用状況を把握したければ、どんな曲を聴くのか、いつ聴くことが多いのかという一般的な話を聞くのではなく、最近、新しく聴き始めたアーティストがいるか、それはいつどんなきっかけで知り、どうやって音楽コンテンツを入手したのかを具体的に訊いていきます。また、実際に使っているポータブルミュージックプレイヤーやiTunesのアプリケーションの画面などを見せてもらいながら、どの程度の曲が管理されているか、どう管理しているか、質問します。

ユーザー行動とその背後の環境要因の関係を明らかに

ポイントは、できるだけ個別の行動を具体的に話してもらうということです。1つの具体例を訊いたらそれとは別の例を挙げてもらい、どういう行動がルーチン的なもので、どういう行動が例外的なものかを明らかにします。また、そのルーチンと例外を分けるものがどんな環境的要因によるものかが把握するためのヒントを得るようにします。

コンテキスチュアル・デザインのプロセスでは、調査データの分析に対象者の行動とその背景となる環境を理解するための「ワークモデル分析」という手法を用いたり、ユーザーの新しい行動環境を作り出すコンセプトモデル作成に「ユーザー環境デザイン」というモデル図を使ったコンセプトメイクの手法を用います。
調査後にそうした分析やモデリングを行えるようにするためにも、調査対象者の具体的な行動とその背後の環境要因の関係を、行動の文脈から明らかにすることが、コンテキスチュアル・インクワイアリーのインタビュアーには求められます。

利用者の行動とその背後にある環境要因の把握が必要な例としては、次のようなことが挙げられます。

師匠と弟子

そこでインタビュアーが質問のテクニックとして用いるのが「師匠と弟子」と呼ばれる方法です。

師匠と弟子という質問法においては、インタビュアーが弟子となって調査対象者を師匠に見立て、普段行っている特定の行動を再現してもらいながら話を聞きます。師匠の経験を弟子が見よう見真似で受け継ぐのです。
師匠である対象者は行動を再現して見せながら説明し、弟子は不明な点があれば、どんどん質問をします。弟子であるインタビュアーはある程度話を聞けたところで、自分が理解したことを師匠に話して正しく理解できたかをチェックしてもらいます。

こうした質問法を用いて、対象者が普段の生活の中で行っている様々な行動、利用のシチュエーションを明らかにしていくのが、コンテキスチュアル・インクワイアリーという調査法です。
消費者の潜在的な要求は、利用の文脈のなかにこそ潜んでいます。その隠れたウォンツの現実の利用状況のギャップを把握することから、イノベーションを切り開く作業ははじまるのです。

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経営戦略として取り組む人間中心のデザイン

2月 23rd, 2010

潜在的な顧客要求の発見から新たな市場機会を生み出す人間中心のデザイン(Human Centered Design)は、単なるデザイン手法というだけでなく、イノベーションにより新たな市場創出を目指す経営戦略です。

人間中心のデザインは、デザイン思考という名で呼ばれることもありますが、このデザイン思考を経営戦略として取り入れている企業としては、プロクター・アンド・ギャンブル、ヒューレット・パッカード、ジョンソン・アンド・ジョンソン、アップルなどが挙げられます。
こうした企業は、デザインの考え方や手法を活用して左脳と右脳の思考を、あるいは個人と組織を融合することで、ビジネスを成功へと導く正しい道筋を示すことを目指すデザイン思考をはやく経営戦略として取り入れています。

ターゲットの意識下にある潜在的な要求を探り出す

このデザイン思考=人間中心のデザインにおいて、まず最初に求められるのは、いかにして「潜在的な顧客要求」を発見するか?ということです。このように書くと、従来のマーケティングでも顧客視点に立って、リサーチを行っているではないかと思われる方もいらっしゃると思います。

その通りで、はじめにターゲットと考えられる顧客を把握し、そこから顧客のウォンツを導きだし、どんなベネフィットを提供するか、そのためには商品はどんな属性をもつ必要があるかを考えるという大枠の流れは、従来のマーケティングアプローチも、人間中心のデザインのアプローチも違いはありません。
ただ、人間中心のデザインが従来のマーケティングにおけるリサーチと異なるのは、「潜在的な顧客要求」を発見するために、ターゲットの意識下にある潜在的な要求を探り出すリサーチ手法を用いる点です。

意識に上ったことというのは、実は氷山の一角

アンケート調査やフォーカスグループインタビューなどの従来のマーケティングリサーチでは、人が日常的に意識している・言語化している領域が対象になります。しかし、人間の生活行動において言語化された領域というのはあくまで氷山の一角です。イノベーションにつながる潜在的なウォンツの発見のためには、水面下に隠れた非言語化領域の把握が必要です。

比較的浅い層にある潜在意識は、フォーカスグループなどで潜在意識に刺激を与えることで引き出すことが可能ですが、消費者自身さえ気づいていない潜在意識・非言語化領域におけるウォンツや問題点、暗黙知といったものを導き出すことはできません。

意識下の言語化されない領域にフォーカスする

そこで人間中心のデザインで用いられるような、従来とは異なるリサーチ手法が必要になってきます。
具体的な調査手法としてはこちらのページでも紹介しているように、エスノグラフィ、コンテキスチュアル・インクワイアリーといった行動観察の調査手法や、先日紹介したイメージカードソート法、評価グリッド法®のように潜在的な価値構造をあぶり出す調査手法です。

行動観察にしろ、価値構造にしろ、いずれも消費者自身さえ気づいていない意識下、言語化されていない領域を把握することが必要になりますので、当然、消費者に意見を聞くということはできません。
それゆえ、人間中心のデザインで用いるリサーチ手法では、基本的に消費者の考えや意見を聞くのではなく、実際の消費者の行動やその背景を観察することに重きをおきます。

消費者が実際の生活のなかで行っている行動を実際に観察し、そのなかで調査対象者に話を聞くことで、普段の行動の背後に潜んだ、消費者自身も知らないウォンツを発見するのです。もちろん、行動を観察すれば誰でも潜在的な要求が発見できるというわけではなく、観察やインタビューにもそれなりのテクニックや経験が必要です。また、具体的にどういう人の行動を観察するかという調査対象者の選定もうまく行わなければ、有益な発見ができないということもあります。

経営戦略として人間中心のデザインに取り組む

ただ、そうした課題をクリアした上で、観察調査から消費者の潜在的な欲求を導きだし、それを商品開発や事業戦略のなかにきちんと織り込んでいくことを通常のプロセスにできれば、次々と新たな市場創出を可能にする強い組織ができます。
それゆえ、人間中心のデザインというのは、本来、1つの商品開発のプロセスとして適用する以上に、企業組織全体で取り組む経営戦略として取り組んだほうがはるかに大きなリターンが得られるものです。

こうしたアプローチに本格的に取り組む企業が増えるよう、今後ともサポートしていければと思います。

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誰に何をどこで伝えるか?

2月 19th, 2010

Twitterを利用する人の増加の勢いが止まりません。
バンクーバ・オリンピックを見ている人の実況中継的なつぶやき(#gorin)をみても、時間帯によっては数秒ごとに10件、数10件単位で増える勢いです。

こうした流れの中、企業も自社のマーケティングにTwitterの活用を模索し、公式アカウントで担当者が人力でつぶやいてみたり、botを活用したりと様々なケースが見られます。

モバイル、ソーシャル、リアルタイム

Twitterだけでなく、こちらもユーザー数が増え続けているiPhoneユーザーを狙ったマーケティングコミュニケーションも加えた最近のマーケティングコミュニケーションの流れは、シリコンバレーのベンチャーブログA VC主宰のFred Wilson氏が、ゴールデントライアングルと呼んだ「モバイル」「ソーシャル」「リアルタイム」という現在進行中のWebの3大トレンドを反映したものと捉えることが可能です(「ネットバブルから10年、成長のカギはモバイル・ソーシャル・リアルタイムへ:IT-PLUS」参照)。
短期間で400万人超の利用者を獲得したサンシャイン牧場が話題となったmixiアプリなども、ソーシャル、モバイルといったトレンドをきっちりと抑えたコミュニケーションの形態であり、こちらも企業のマーケティングコミュニケーションの1つのパターンとして今後注目を集めるのではないかと思います。

景気低迷期におけるマーケティング戦略の効率化

ただし、こうしたマーケティングコミュニケーションの手法のトレンドも、そもそも何を目的としたコミュニケーションであり、誰をターゲットに、何をゴールとして行うかが明確になっていなければ、評価のしようがないものとなってしまいます。
目的、ゴール、ターゲットが明確でなければ、何を測れば評価となりうるのかが決まりません。効果を測る方法がないのではなく、測定する基準がそもそも明確ではないからです。経営的にみれば、こんな無駄なことはありません。

特に昨今の景気が低迷する状況で、マーケティング予算も絞られる中、全体的なマーケティング戦略のなかで各コミュニケーション施策それぞれにどのような目的を位置づけ、どういった効果を得ていくかという統合的な評価の視点は、効率的な予算配分を行うには不可欠なものでしょう。

全体的なマーケティングの課題のなかで、どのようなターゲットにどのような行動を促すことが必要か、そのためには、どこでどんなコミュニケーション施策を実施する必要があるか。そうした視点に立って、商品のポートフォリオ、チャネル戦略、価格、そして、コミュニケーションの統合的に組み立て、課題の解決を図ることが本来マーケティングには求められているはずです。

しかし、実際にはそうした自社のマーケティング上の現状の課題を俯瞰的な視点で眺め、将来のあるべき姿を思い描くための事実データを欠くケースが少なくないでしょう。

誰に何をどこで伝えるか?

自社のマーケティングの課題を包括的に捉えるためのベースとなるデータ・分析を欠いているために、マーケティング戦略の立案、施策の組み立てが勘頼り、行き当たりばったりになってしまう。

こうした課題をお持ちの企業の方々に対して、弊社では、ターゲットを明確化した上で、マーケティング上の課題を整理し直し、マーケティグコミュニケーションの目的やそれに対応したゴールやマイルストーンの設定をするサポートをさせていただいています。

調査に基づいてユーザーグループのセグメント化を行い、各セグメントに仮想のユーザー像としてのペルソナを立てた上で、上記のイメージのように各ペルソナに対する商品戦略、価格戦略、チャネル戦略、コミュニケーション戦略を明らかにします。

誰に、何を、どこで、どうやって伝えるか?
何が得られれば施策の成功と見なすか?

マーケティング戦略を各施策へ落とし込むにあたってそうした事柄を、ユーザーセグメントをベースに整理し、マッピングするのです。

その上で、各種施策のマイルストーンをスケジュールへと落とし込み、それぞれ測定可能なゴール設定します。各施策の最終ゴールの前に、実施中のパフォーマンスを測るパフォーマンス指標を設けることで、実施途中でのコントロールを可能にするケースもあります(特に数値の測定がリアルタイムに行いやすい、Web系の施策の場合)。

Twitterを使うか、iPhoneユーザー向けに何か仕掛けをするか、といった手法の選択は、あくまでこうしたマーケティング上の課題を、ターゲット別にきちんと落とし込んで、誰に何を伝えていくかが整理された上ではじめて決定されるべきことではないかと思います。

マーケティングは「売れる仕組みづくり」だと言われます。
仕組み=システムを欠いた、行き当たりばったりの施策の繰り返しでは、売れる状態をつくりだすのはむずかしいのではないでしょうか?