KJ法の生みの親である、故・川喜田二郎さんの著書『発想法―創造性開発のために』は、人間中心のデザインを商品開発に取り入れようと考える方にとっては必読書です。
質的研究のベーシックな技法としてのKJ法がコンパクトに紹介されているというだけでなく、その背後にある発想する際の心の動き−アブダクション−を的確に捉えていて、KJ法を使わない場合であっても、発想、創造はどのように行えばよいかのヒントが隠されているからです。
私が著書『ひらめきを計画的に生み出す デザイン思考の仕事術』で、川喜田さんの本を紹介しながらデザイン思考の方法論として展開させたのもそれが理由です。
W型問題解決モデル
さて、その『発想法―創造性開発のために』のなかで川喜田さんは、W型問題解決モデルというものを提唱しています。科学的発想のプロセスをモデル化したもので、次のようにW字型に図示できるので、そう呼ばれます。

発想のプロセスは、最初の「問題提起」からはじまり、右へと流れていきます。その際、上下に「思考レベル」と「経験レベル」の2つのレベルがあり、作業プロセスはこの間を行き来することになります。
書斎や研究室などの内部での「問題提起」から、内部から対象が存在する外部を想像しながら行う「探検」を経て、実際の現場での「観察」に移ります。これは人間中心のデザインでいえば、コンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問法)などの調査にあたります。
その次の「発想」の段階はまさにKJ法の出番。「観察」で得たデータを元に分析を行い、発想を生みだす段階です。人間中心のデザインでは他にワークモデル分析などを併用します。
この「発想」の段階を経て、再び、思考レベルに戻って「推論」を行います。仮説を組み立てる段階です。人間中心のデザインであれば、コンセプトを生みだす段階です。ペルソナやシナリオなどもコンセプトづくりのための手法です。
次に、科学の分野であれば「推論」により作成した仮説を検証する「実験計画」を立てますし、人間中心のデザインであれば、コンセプトを具体化するプロトタイピングを重ねます。その段階を経て再び「経験レベル」に移動し、「実験の実施」や、人間中心のデザインであればユーザーテストを行います。その実験/テストによって仮説やプロトタイプが「検証」され、問題点などが明らかになる。
以上がごく大ざっぱなW型問題解決モデルの概観です。
日常語を非日常化して問いを立てる
さて、このW型問題解決モデルのポイントは以下の2つです。
- 日常語を非日常化して問いを立てる
- 思考レベルと経験レベルの両方で発想のための素材を集める
1つ目の「日常語を非日常化して問いを立てる」に関しては、先ほど、すこしTwitterのほうでもつぶやいておきました。イノベーションへと通じる発想を生みだすためには、何よりまず問いを立ててみることが大事だ、と。問いから思考がスタートすることで、思わぬ収穫に出くわします。
その際、工夫すべきは問いの立て方です。
わからないことを問うのは誰でもできます。ただし、その問いからは新しい発想は生まれにくい。工夫が必要なのは、わかっていることを問いに変換することが求められるからです。イノベーションにつながる発想にとって有益な問いは日常語を非日常化するような問いです。
当たり前だと思って見過ごしていることを検討の俎上にのせるような大胆な問いこそがイノベーションへの道を開きます。「問題提起」の段階がいかに大事かということです。
思考レベルと経験レベルの両方で発想のための素材を集める
次に2つ目のポイントである「思考レベルと経験レベルの両方で発想のための素材を集める」は、まさにそのことに関係しています。
日常を非日常化するような問いを発するためには、まずその問いを成り立たせるための日常をさまざまな角度から詳細に眺めて得た情報が必要です。それは経験レベルで行う観察の結果だけが大事なのではなく、書物などの資料から得られる情報も同時に大事だということです。
どうもデザイン思考だとか、人間中心のデザインだとかいうと、エスノグラフィだのフィールドワークだの、観察による情報収集ばかりが取りざたされる傾向がありますが、大事なのは現場でのデータだけではありません。日常を非日常化する問いを立てるためには、現場という日常から得られる以外のオルタナティブな面も見ておく必要がある。すでに観察不可能な過去の情報や、現実をまったく違った目から眺める様々な人の見方を知っておく必要がある。この思考レベルと経験レベルのバランス、行き来こそが発想を生みだすきっかけを与えてくれるのです。
本日はiPadが日本でも発売されました。
あらためて実物をみると、これからいろんなことが起こりそうだと感じます。iPadでいろんなことが変わるとき、自分たちはどう変わるか。何をどう変えるか。それを考え、イノベーションを生みだすためにも、どのような問いを立てられるかが大事なのではないでしょうか。