ワークモデル分析:行動とコンテキストの関係を明示する

前回は、生活者の行動の背後に隠れた潜在的なウォンツを明らかにする質的調査の手法として、人間中心のデザインで用いるコンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問法)という調査手法について紹介しました。

コンテキスチュアル・インクワイアリーは、師匠と弟子と呼ばれる質問法を用いて、生活者が日頃行っている行動とその背景を詳細に、具体的に、明らかにする調査方法です。生活者が普段行っている行動が、どのような背景(=コンテキスト)で行われているかをあぶり出すことで、生活者の行動や体験そのものをリデザインする糸口を見つめることが、調査の目的です。

行動とコンテキストの関係をリデザインする

生活者の現在の行動を形作っている要因そのものを変化させ、生活者にとってより価値のある体験を生みだすためのイノベーションを創造すること。
それが人間中心のデザインを行う理由の1つです。

それゆえ、生活者の暮らしの現状を把握するためのコンテキスチュアル・インクワイアリーでは、しっかりと生活者の行動とそのコンテキストの関係性を明らかにすることが大事です。
「デザインとは関係である」と言ったのは、20世紀を代表するグラフィック・デザイナーであり、デザインの教育者でもあったポール ・ランドですが、モノではなく、ユーザー体験をデザインするアプローチである人間中心のデザインも同様に、人びとの行動とその背景にあるコンテキストの関係性を理解し、その関係性をどうリデザインすれば、人びとの日常の体験がより良いものとなるかを考え、その実現を目指します。

この行動とその背後にあるコンテキストの関係性がうまくひも解くことができないと、どこを改編すればよいのかがわかりません。それゆえに生活者の現状を調査するコンテキスチュアル・インクワイアリーや、調査で集めたデータを分析し解釈するワークモデル分析やユーザー環境モデリングなどの作業が、デザインにおける問題発見の段階では非常に重要なのです。

行動とコンテキストの関係を解釈するワークモデル分析

コンテキスチュアル・インクワイアリーで収集した生活者の行動に関するデータは、ワークモデル分析という手法を用いて解釈し整理します。

生活者がある目的で特定の行動を行う際のコンテキストを、

  • その行動が行われた際、他の人とどのようなコミュニケーションが成されたか
  • その行動はどのような手順で行われたか
  • どのような物理的環境で行動が行われていたか
  • どのような文化的コンテキスト(組織のルール、人間関係etc.)の下で行動が行われたか
  • 行動を行う際、どのような道具が用いられ、どのような人工物(メモや写真撮影etc.)が作成されたか

といった5つの視点で考察し、生活者の行動にどんな要素がどんな形で影響を与えていたかを明らかにします。

この分析作業は、ワークモデル分析の名のとおり、コンテキスチュアル・インクワイアリー調査で集めたデータを、図式化して解釈する形で行います。特定の一連の行動を上記の5つの視点で5つの図にするのです(必ずしも、すべてのケースで5つの視点全部を使うとは限りませんが)。

インタープリテーション・セッション

こうした作業を、調査対象とした各生活者単位で行います。10名に対して、コンテキスチュアル・インクワイアリー形式でのデプスインタビューを行ったのなら、10名それぞれに対し、図式化による解釈を行います。各調査対象に複数のシチュエーションでの行動を聞くケースが多いと思いますので、1名に対しても複数の図式化の作業を行うことになります。

通常、調査に立ち会う人は複数いると思いますので、その人たちのあいだで調査対象者の行動に対する共通の解釈をつくることも大切です。ですので、このワークモデル分析の作業は通常、インタープリテーション・セッション(文字通り解釈のためのセッション!)と呼ばれるワークショップ形式で行います。

調査でインタビューを担当したモデレーターがインタビューの結果を再現的に話しながら、ワークショップに参加している他のメンバーが、5つの視点でのワークモデル図を描きます。参加者が5人いれば、1人が1つの視点という形で担当を振り分けると効率的です。

グループワークで自分たちの「当たり前」を壊す

もちろん、作図をしながら解釈を共有するための議論も行います。作図をすることではじめて気づく行動とコンテキストの関係性も多いはずです。1人では気づかないことも、複数人で議論を行いながらモデル化していく作業をすると、発見できます。

こうしたグループワークによる発見やアイデアの創発を促すよう、作業過程をデザインすることも、人間中心のデザインによるイノベーションを成功させる1つのポイントです。日常では「当たり前」と思って誰も気にも留めないようなコンテキストの背後に、体験のリデザインにつながるようなイノベーションの糸口を発見するには、1人1人の固定観念を壊すような創造的なグループワークの力が必要です。

他人や社会を変えるようなイノベーションを見つけるためには、まず自分たち自身が変わらなくてはいけません。そうした自分たちの「当たり前」を壊す発見をする場が、インタープリテーション・セッションというワークショップです。

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