人間中心のデザインで用いるユーザー行動観察&インタビューの手法の1つに「コンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問法)」と呼ばれる手法があります。
インタラクションデザインを専門とするHoltzblatt, K.とBeyer, H.が考案した「コンテキスチュアル・デザイン(Contextual Design)」と呼ばれる人間中心のデザインのプロセスの中で用いられる手法で、ユーザーの利用状況を把握するための調査手法です。
コンテキスチュアル・デザインは、商品やサービスが用いられる文脈=利用のシチュエーションにフォーカスを当てることで、その文脈における課題や隠れた要求を見いだし、文脈そのもののリデザインも含めたイノベーションの実現を目指すデザイン・アプローチです。
具体的な利用状況の再現によりユーザー行動を把握する
前回の「経営戦略として取り組む人間中心のデザイン」でも書かせていただいた通り、潜在的な顧客要求の発見から新たな市場機会を生み出す人間中心のデザインのプロセスでは、言語化・意識化されないターゲットの潜在的な要求を探り出すリサーチ手法が必要となります。
利用の文脈=シチュエーションに焦点を当てて観察&インタビューを行い、把握するコンテキスチュアル・インクワイアリーは、言語化・意識化されないターゲットの潜在的な要求を探り出すことを目指す人間中心のデザインにおける調査においては非常に有効で、用いられることの多い調査法の1つです。
「ターゲットの利用の文脈=シチュエーションに焦点を当てる」ために、インタビュアーは、調査対象となる人から、類型化された行動や一般化された話を聞くのではなく、実際に対象者が行った特定の行動に関する話を具体的に聞きます。
例えば、ポータブルミュージックプレイヤーで音楽を聴くユーザーの具体的な利用状況を把握したければ、どんな曲を聴くのか、いつ聴くことが多いのかという一般的な話を聞くのではなく、最近、新しく聴き始めたアーティストがいるか、それはいつどんなきっかけで知り、どうやって音楽コンテンツを入手したのかを具体的に訊いていきます。また、実際に使っているポータブルミュージックプレイヤーやiTunesのアプリケーションの画面などを見せてもらいながら、どの程度の曲が管理されているか、どう管理しているか、質問します。
ユーザー行動とその背後の環境要因の関係を明らかに
ポイントは、できるだけ個別の行動を具体的に話してもらうということです。1つの具体例を訊いたらそれとは別の例を挙げてもらい、どういう行動がルーチン的なもので、どういう行動が例外的なものかを明らかにします。また、そのルーチンと例外を分けるものがどんな環境的要因によるものかが把握するためのヒントを得るようにします。
コンテキスチュアル・デザインのプロセスでは、調査データの分析に対象者の行動とその背景となる環境を理解するための「ワークモデル分析」という手法を用いたり、ユーザーの新しい行動環境を作り出すコンセプトモデル作成に「ユーザー環境デザイン」というモデル図を使ったコンセプトメイクの手法を用います。
調査後にそうした分析やモデリングを行えるようにするためにも、調査対象者の具体的な行動とその背後の環境要因の関係を、行動の文脈から明らかにすることが、コンテキスチュアル・インクワイアリーのインタビュアーには求められます。
利用者の行動とその背後にある環境要因の把握が必要な例としては、次のようなことが挙げられます。
師匠と弟子
そこでインタビュアーが質問のテクニックとして用いるのが「師匠と弟子」と呼ばれる方法です。
師匠と弟子という質問法においては、インタビュアーが弟子となって調査対象者を師匠に見立て、普段行っている特定の行動を再現してもらいながら話を聞きます。師匠の経験を弟子が見よう見真似で受け継ぐのです。
師匠である対象者は行動を再現して見せながら説明し、弟子は不明な点があれば、どんどん質問をします。弟子であるインタビュアーはある程度話を聞けたところで、自分が理解したことを師匠に話して正しく理解できたかをチェックしてもらいます。
こうした質問法を用いて、対象者が普段の生活の中で行っている様々な行動、利用のシチュエーションを明らかにしていくのが、コンテキスチュアル・インクワイアリーという調査法です。
消費者の潜在的な要求は、利用の文脈のなかにこそ潜んでいます。その隠れたウォンツの現実の利用状況のギャップを把握することから、イノベーションを切り開く作業ははじまるのです。