Archive for the ‘人間中心のデザイン’ Category

デザイン思考ワークショップ開催。参加者を募集します。

木曜日, 7月 29th, 2010

8月20日(金)に、弊社にて「デザイン思考ワークショップ」開催します。

ペルソナやシナリオ、プロトタイピングなどの手法を用いて、ユーザー体験をデザインするアプローチを学んでいただくワークショップです。

今回は、ウェブデザイナー/開発者、各種ユーザーインターフェイスのデザイナー/開発者、ネットサービスの企画者様などを対象に、20名まで参加者を募集します。
参加費はお一人様30,000円となっています。

講師は私・棚橋が担当。
参加者はチームに分かれて、こちらから提供するユーザーのデータに基づき、デザイン思考の手法を用いて、ユーザーの期待に応えるためのウェブサービスを企画、デザインしていただきます。

これまで何度か、同様のワークショップを開催させていただいていますが、参加者の方からは、

  • 本を読んだだけでは、わからなかったデザイン思考での企画/デザインの方法がよくわかった
  • すごく楽しかった。ペルソナには興味があったけど、どう落とし込むのか分からなかったのですが、今回のワークショップでようやく分かった
  • 現在私が行っているWebサイトは本当に会社都合で作っているので、ユーザーに向けてのサイト作りにペルソナ手法を活用したい

といった感想をいただいております。

私自身、このデザイン思考の手法というのは、口だけで説明するのが非常にむずかしく、実際に体験していただくことで他の手法と何が違うかを感じてもらうしかないと思っています。
ぜひ、この機会にペルソナやシナリオを使った、人間中心のデザインとはどういうものかを体験いただき、日々の仕事に活用いただけるよう手法を学んでいただければと思います。

詳細は、以下のページに開催概要、申し込み方法などの記載がありますので、興味のある方はぜひご参照のうえ、ふるってご応募ください。

デザイン思考ワークショップ開催 【参加者募集のお知らせ】

よろしくお願いいたします。

W型問題解決モデル

金曜日, 5月 28th, 2010

KJ法の生みの親である、故・川喜田二郎さんの著書『発想法―創造性開発のために』は、人間中心のデザインを商品開発に取り入れようと考える方にとっては必読書です。

質的研究のベーシックな技法としてのKJ法がコンパクトに紹介されているというだけでなく、その背後にある発想する際の心の動き−アブダクション−を的確に捉えていて、KJ法を使わない場合であっても、発想、創造はどのように行えばよいかのヒントが隠されているからです。
私が著書『ひらめきを計画的に生み出す デザイン思考の仕事術』で、川喜田さんの本を紹介しながらデザイン思考の方法論として展開させたのもそれが理由です。

W型問題解決モデル

さて、その『発想法―創造性開発のために』のなかで川喜田さんは、W型問題解決モデルというものを提唱しています。科学的発想のプロセスをモデル化したもので、次のようにW字型に図示できるので、そう呼ばれます。

発想のプロセスは、最初の「問題提起」からはじまり、右へと流れていきます。その際、上下に「思考レベル」と「経験レベル」の2つのレベルがあり、作業プロセスはこの間を行き来することになります。

書斎や研究室などの内部での「問題提起」から、内部から対象が存在する外部を想像しながら行う「探検」を経て、実際の現場での「観察」に移ります。これは人間中心のデザインでいえば、コンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問法)などの調査にあたります。
その次の「発想」の段階はまさにKJ法の出番。「観察」で得たデータを元に分析を行い、発想を生みだす段階です。人間中心のデザインでは他にワークモデル分析などを併用します。

この「発想」の段階を経て、再び、思考レベルに戻って「推論」を行います。仮説を組み立てる段階です。人間中心のデザインであれば、コンセプトを生みだす段階です。ペルソナシナリオなどもコンセプトづくりのための手法です。

次に、科学の分野であれば「推論」により作成した仮説を検証する「実験計画」を立てますし、人間中心のデザインであれば、コンセプトを具体化するプロトタイピングを重ねます。その段階を経て再び「経験レベル」に移動し、「実験の実施」や、人間中心のデザインであればユーザーテストを行います。その実験/テストによって仮説やプロトタイプが「検証」され、問題点などが明らかになる。

以上がごく大ざっぱなW型問題解決モデルの概観です。

日常語を非日常化して問いを立てる

さて、このW型問題解決モデルのポイントは以下の2つです。

  • 日常語を非日常化して問いを立てる
  • 思考レベルと経験レベルの両方で発想のための素材を集める

1つ目の「日常語を非日常化して問いを立てる」に関しては、先ほど、すこしTwitterのほうでもつぶやいておきました。イノベーションへと通じる発想を生みだすためには、何よりまず問いを立ててみることが大事だ、と。問いから思考がスタートすることで、思わぬ収穫に出くわします。

その際、工夫すべきは問いの立て方です。
わからないことを問うのは誰でもできます。ただし、その問いからは新しい発想は生まれにくい。工夫が必要なのは、わかっていることを問いに変換することが求められるからです。イノベーションにつながる発想にとって有益な問いは日常語を非日常化するような問いです。

当たり前だと思って見過ごしていることを検討の俎上にのせるような大胆な問いこそがイノベーションへの道を開きます。「問題提起」の段階がいかに大事かということです。

思考レベルと経験レベルの両方で発想のための素材を集める

次に2つ目のポイントである「思考レベルと経験レベルの両方で発想のための素材を集める」は、まさにそのことに関係しています。

日常を非日常化するような問いを発するためには、まずその問いを成り立たせるための日常をさまざまな角度から詳細に眺めて得た情報が必要です。それは経験レベルで行う観察の結果だけが大事なのではなく、書物などの資料から得られる情報も同時に大事だということです。

どうもデザイン思考だとか、人間中心のデザインだとかいうと、エスノグラフィだのフィールドワークだの、観察による情報収集ばかりが取りざたされる傾向がありますが、大事なのは現場でのデータだけではありません。日常を非日常化する問いを立てるためには、現場という日常から得られる以外のオルタナティブな面も見ておく必要がある。すでに観察不可能な過去の情報や、現実をまったく違った目から眺める様々な人の見方を知っておく必要がある。この思考レベルと経験レベルのバランス、行き来こそが発想を生みだすきっかけを与えてくれるのです。

本日はiPadが日本でも発売されました。
あらためて実物をみると、これからいろんなことが起こりそうだと感じます。iPadでいろんなことが変わるとき、自分たちはどう変わるか。何をどう変えるか。それを考え、イノベーションを生みだすためにも、どのような問いを立てられるかが大事なのではないでしょうか。

リフレーミング

木曜日, 5月 20th, 2010

さて、あまり告知ばかり続いてもアレですので、ちゃんとしたブログの記事も書いてみようか、と。

今日はリフレーミングという発想法について。
このリフレーミングもデザインの現場では昔から使われている発想法です。
まあ、特に方法というまでのものでもないのですが、とにかく既存にあるものの見方を変えてみることで新たなアイデアを生みだすというのがリフレーミングです。

例えば、

  • 小さいものは大きく、大きいものは小さくサイズを変えてみる。
  • 素材や中身を入れ替えてみる。
  • いつもと順番を逆転してみる。
  • 異質なモノ同士を並べてみて、その2つが融合した形を想像する。
  • 異分野のやり方を取り入れてみる。

など。

そんな風に、普段当たり前だと思い込んでしまっているものを別の視点から見てみることで、意図的に新鮮な見え方を見つけ出す。ものの見方や捉え方の枠組みを変えてみることで新しい発想を生みだそうというのがリフレーミングです。

今日、話題になっているGoogle Font APIも、これまでローカルPCに依存していたフォントをサーバー側のものを利用する形にクラウド化する−置き場所を今までと変える−という意味でリフレーミングの一例でしょう。

面白いアイデアにつながるフレーム変更はむずかしい

こう書くと、なんだ簡単だと思うかもしれませんが、意外とやってみると大変です。

いや、ありきたりなフレーム変更ならいくらでも思いつくのですが、フレームを変えて面白いアイデアが出てくるかというとそれは別。パッと思いつくようなフレームの変更から出てくるアイデアはやっぱり陳腐です。

そのくらい人間の思い込みというのは案外強力なのでしょう。
フレームを変えているつもりでも、意外と元のフレームに引きずられてしまうのだと思います。
何か商品のアイデアを出すためにフレーミングしているのだとしたら、その商品の根幹から覆すようなリフレーミングをするには、どういう視点から枠組みを変えればいいか。その視点自体がなかなか見つからないものです。
発想する人自身の固定観念が無意識のうちに「それは無理」と決め込んで、フレーム変更の対象から除外してしまっているのでしょう。

リフレーミングの3つのポイント

反対に、面白いアイデアの発想につながるフレームの変更というのは、そんなところ変えられるの? とか、それとそれを組み合わせるの? と、なかなか気づかないところだったりすることが多い。

では、どうすればいいかというと、これは量を追求するしかない。
簡単に思いつくアイデアが在り来たりだとしたら、思わぬ発想というのは実は行き詰まったときに突然浮かび上がってきたりします。とにかく質ではなく、まずは量を追求してみる。
これが1つ目のポイント。

2つ目のポイントは、一人でアイデア出しをするよりは、複数人でブレインストーミングをするなどの方法を取り入れることです。一人で考えていると固定観念にはまってしまって、そこから抜け出せなくことが多いのですが、ブレインストーミングなら他の人の出したアイデアが見方を変えるきっかけにもなります。逆にいうと、ブレインストーミングでなかなかアイデアがでない時は、このリフレーミングのやり方を取り入れるといいでしょう。

そして、3つ目のポイント。
それは具体的なモノを見たり触ったりしながらだったり、あるいは、ボディーストーミングと呼ばれる手法のように、あたかも新しいアイデアを具現化した商品が目の前にあるかのように身体を使ってシミュレーションしてみるようなやり方をしてみることです。
これはようするに、言葉以外の記憶を呼び覚まして、発想を誘発するということです。言葉だけで考えていては気づかないことも、身体が無意識のうちに覚えている記憶を刺激して呼び覚ますことで、違う発想が生まれてくることもあります。
例えば、何かを大きくするという場合でも、実際にささっとプロトタイプを作ってみるとか、手や身体を使って、その大きさやそれを使う時の姿勢などを表現してみると、言葉だけで考えていたのでは気づかないことが見えてきたりもします。

リフレーミングの効用

発想というのはゼロから生まれることはほとんどなくて、基本的には既存のアイデアの組み替え、バリエーションだったりします。「そんなの無理」と自分の発想に蓋をしてしまうから、新しいアイデアが生まれてこないだけで、実はアイデアの元はそこら中に転がっています。

先日、弊社の広報をお手伝いいただいている方もおっしゃってました。
ニュースのネタを作る1つのコツは「狭い範囲に絞る」ことだと。
教えてもらった例をそのまま書けば「ショッピングの分野で」「女性が活躍する分野で」ではなくて「インテリアのオンラインショッピング分野で」「働くバツイチシングルの女性にとって」と領域を絞ることで、その分野でのナンバーワンにもなれるし、自身の特色も表現しやすくなります。
これも1つのリフレーミングです。

そして、何よりのリフレーミングは、ピンチをチャンスに変えること。よくピンチはチャンスだといいますが、自社にとっての脅威や弱みを見方を変えることで、機会や強みに変える。これこそがリフレーミングの最大の効用でしょう。

というわけでネタがないからブログ書けない、Twitter始めたからブログを書く暇がないと流れがちな想いをリフレーミングして書いてみました。

講演「Human Centered Designのネクストステップ」

月曜日, 5月 17th, 2010

GW前から更新が滞っています。
そして、いきなりの更新の再開が告知で申し訳ありません。

2010年6月9日 (水) – 11日 (金)の日程で行われる、ソフトウェア・シンポジウム 2010 「ソフトウェア・エンジニアリングの変容と再生」でお話しさせていただくことになりました。
このソフトウェア・シンポジウムというイベント。私は今回お声がけいただくまで知りませんでしたが、30年以上続いているものだそうです。ソフトウェアというと歴史の浅いものだと感じてましたが、それでも、こうしたイベントが30年を超える程度には歴史の積み重ねがされてきたんですね。

そして、その「変容と再生」が今回のテーマという。
そこで私が話をするテーマは「Human Centered Designのネクストステップ」。
こちらも「変容と再生」にあわせて、現在主流のHuman Centered Designの問題点を明らかにしつつ、次のステップとしてどう変化すべきかという点を、ソフトウェアの観点を中心にお話しようと思っております。

Human Centered Designのデザインプロセスが、インタラクティブシステムを対象に国際規格化されたのが1999年。今年で11年目を迎える。そのユーザー中心のデザイン思考は、AppleやIDEOなどの先進的な企業で用いられ、数々のイノベーションを実現させている一方で、その機能重視、体験重視のアプローチには批判も出てきている。とりわけ何を機能化し、何を個人としての人間や集団としての人間のスキルや文化として残すのかという長期的なスパンでヴィジョンを描いた上でデザインしているかどうかが問われはじめている。
こうした長期的なヴィジョンをもつことが求められるHuman Centered Designのネクストステップは、ソフトウェア開発にも影響を与えるだろう。何をソフトウェア化し、何を人そのものがもつ文化やスキルとして維持するのか。今回は、人間の生活、社会における文化という側面からソフトウェアというものを考え直してみたい。

お話しする日時は、11日(金)の11:15 – 12:15となっております。
ご興味のある方はぜひご参加ください。会場でお会いしましょう。

その他のプログラムに関してはこちらを参照ください。
なお、ソフトウェア・シンポジウムへの参加費用などはこちらのページでご確認いただければと思います。

以上。告知でした。
よろしくお願いいたします。

身体姿勢とユーザーインターフェイス

金曜日, 4月 23rd, 2010

アメリカではiPadが発売されて話題になっていますが、それも含めてユーザーインターフェイス(以下、UI)が多様化する勢いが増してきているという印象です。そうした流れの中、UIとそれを用いる際の身体姿勢との関係について考えていく必要も増えているのではないかと思っています。

ここで言っているUIは、単にGUIの画面のなかの話ではなく、 これまでの一般的なPCのGUIであればディスプレイ+キーボード+マウスが一体となったハードウェアも含めたものを指しますし、iPhone、iPadであればタッチ操作が可能なハードウェアを含めた、ユーザーとコンピューターのインターフェイス全体を指します。

著名なインタラクションデザイナーであるアラン・クーパーは著書『About Face 3 インタラクションデザインの極意』のなかで、

システムのハードウェア要素とソフトウェア要素(およびそれらの間のインタラクション)を同時にデザインすることが大切だ。そして、そのときにゴールダイレクテッド、人間工学の観点と美的観点を忘れてはならない。
アラン・クーパー『About Face 3』

と書いていますが、まさにハードウェアとソフトウェアとを統合した形でユーザーエクスペリエンスをデザインする必要性が、UIの可能性が技術的に多様になった今だからこそますます重要になってきています。

そのUIを考える際に、クーパーがいうように「人間工学の観点と美的観点」を忘れないためにも、それを用いる際のユーザーの身体姿勢をあらためて考慮に入れて設計したほうがよいと感じています。

身体姿勢と利用のオケージョン

身体姿勢は、まず大きくは、立った状態、座った状態、寝ている状態と分けることができます。

しかし、さらに詳細に分ければ、

立った状態
静止している、歩いている、混雑した場所で立っている、など
座った状態
デスクに向かって椅子に座っている、ローテーブルを前にソファーに座っている、公園などの屋外のベンチに座っている、床に座っている、ベッドの上に脚を伸ばして座っている、など
寝ている状態
仰向けに寝ている、うつぶせで寝ている、身体を横にして寝ながら時々方向を変える、など

といった様々な状態をイメージすることができます。

そして、これらの身体姿勢は、それぞれ会社で仕事をしているとか、移動中に歩いているとか電車に乗っているとか、交差点で信号待ちをしているとか、家や飲食店で食事をしているとか、家でぼーっとくつろいでいるとか、寝る前の時間をベッドの上で過ごしているとか、様々なオケージョンに紐づいています。

利用のオケージョンとUIのデザイン

こうした身体姿勢が多様化してきたUIのデザインと深い関係にあると思うのです。

例えば、コンピュータといえばデスクトップが主流であった頃であれば、文字通り、その利用にはデスクが必要でした。一般的なオフィスでの利用のように、椅子に座った状態でちょうどよい高さのデスクの上で使うというのが利用時の基本となる身体姿勢だったはずです。
家庭で床座で使うような場合でも、床に座った状態の高さでちょうどよいテーブルが利用の必須条件だったでしょう。

それがノートパソコンが主流になってくると、パソコンはデスクの上やテーブルの上に必ずしも固定しておく必要はなくなりました。

床にうつぶせで寝転がった状態で使うこともできますし、ソファーに深く腰掛けた状態で脚の上にのせて使うこともできます(長時間使っていると脚が熱くなりますが)。
その場合でもGUIのデザインから来る制約から、適切な画面との距離、適切なキーボードやマウス(またはタッチパッドなど)が決まったはずです。持ち運びが可能になったとはいえ、デスクやテーブルとは限らないまでも、床や脚の上などを含め、利用するための置き場所は必須でした。

日本人の生活スタイルにおける身体姿勢

携帯電話というUIは、そうした置き場所に縛られた利用の制約を取り除き、立った状態でも利用ができるよう、利用可能な身体姿勢とオケージョンの幅を広げました。
歩きながらでも使えますし、混雑した電車のなかで片手でメールをすることもできる。先に列挙したほとんどの身体姿勢で利用できるのが従来の携帯電話のUIだったのではないかと思います。

特に、椅子の生活の割合が増えたとはいえ、まだまだ床座や床やベッドに寝転がった状態でリラックスをする日本人の生活に、その片手におさまり天地や縦横がどのような状態でも使えるUIは、非常にマッチしていたのではないかと思います。

ところがiPhoneが登場して、利用可能な身体姿勢のバリエーションという点では、すこし後戻りがみられました。よく言われるように、文字入力が片手で行いにくいことや、寝転んだ状態の天地や縦横が決まらない状態での操作がむずかしいことなど、携帯電話のUIで可能だったことができなくなってしまいました。

iPadはどうでしょう? まだどういう問題が実際に出てくるかはわかりませんが、例えば、先のノートパソコンの例にあった脚の上にのせて操作するということはできなくなるのではないでしょうか。キーボード付きのドックが用意されていますが、脚の上にのせて安定するかは疑問です。
うつぶせの状態でもどうなのでしょうか。キーボード付きのドックなしの状態で使う場合は常に手で支えている必要があるでしょうから、長時間の利用にも向いていないのは確かでしょう。

いまだに床座や、床やベッドに寝転がった姿勢で過ごすことの多い日本人のライフスタイルを考えると、必ずしも適切なUIデザインではないかもしれません。

操作という小さな作業をするときの身体姿勢とデザイン

こんなことを書くのは別にiPhoneやiPadの問題を指摘したいからではありません。操作をする際の身体姿勢とUIのデザインの関係について示してみたかったからです。
ごく小さな動作だとはいえ、機器を操作するというのもやはり作業です。作業と身体姿勢の関係はデザインを考える上では切っても切れない深いつながりがあることにもう一度焦点を当ててみたかったからです。

いわゆるGUIの話とは別ですが、食事をする際のインターフェイスである、食器や箸、フォーク&ナイフ、テーブルや椅子の高さなどの組み合わせも、それぞれの国の文化における身体姿勢によって異なるということを考えてみてもおもしろいでしょう。

西洋ではフォークとナイフで食事をするために食器を手で持ち上げることはありませんが、箸を使う日本では食器を手にもって食べます。手に持ちやすいよう、茶碗や汁器などは手のひらになじむ丸みを帯びた形、大きさになっている。同じ箸を使う東洋のなかでも、テーブルに肘をついて食べる中国と、肘をつかない日本では、テーブルの卓面と椅子の座面の高さの関係が異なります。同じ日本でも立ち食い蕎麦屋などで立って食べるときはある程度テーブルの高さがあったほうが食べやすい。

食事をするという行為における身体姿勢と、その行為を可能にするインターフェイス=道具のデザインもこのように密接に結びついています。

日本のライフスタイルに合ったUIのデザイン

今後、ますますUIデザインの自由度が増える状況では、同じように、こうした人間の身体姿勢とその姿勢をとる際のオケージョン、心理状態をきちんと考慮した上で、デザインする必要が増してくるのではないかと思います。

このあたりを考えていく上で前回「シナリオを使ったデザイン」で紹介したような、ユーザーの利用シーンをどんな環境でどのような操作を行うかも具体的にイメージしながらデザインする手法が有効になるでしょう。

特にいまだ西洋とは異なるライフスタイルをもつ日本文化に合ったUIデザインの提案というのは、日本のなかでこそ生まれてこないといけないのではないかと思います。

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シナリオを使ったデザイン

火曜日, 4月 13th, 2010

前回の「ペルソナ(ユーザーモデル)を作る」では、商品/サービスを用いるターゲットユーザーの人物像を明示する手法としてのペルソナを紹介しました。

ペルソナは商品/サービスを利用する人間の側を描いたモデルです。次の作業としては、そのペルソナが実際に利用する側の商品/サービスのモデルを考えることが必要になります。

つまり、商品/サービスのコンセプトメイクをします。
その方法のひとつが、今回紹介するシナリオを使ったデザイン(シナリオ・デザイン)です。

ペルソナにとって理想の商品をシナリオとして描く

シナリオを使ったデザインでは、ペルソナが商品/サービスを利用する際のスタートからゴールに至るまでの一連の流れ(ペルソナがいつどんな場所で何を目的として、どのように商品/サービスを操作、利用するのか)を、物語風の文章として描きだします。

その物語のなかでペルソナは、自身の抱えていた問題をいまはまだない理想の商品/サービスによってスムーズに解決します。物語には、ペルソナがどんな風に商品/サービスを操作するのか、使った感じからどんな感情を抱くのかが描かれますが、その経験はすべて快適で、ペルソナにとって好ましいものです。

つまり、ここで描かれるシナリオは、ペルソナにとって理想の状態を描いたものです。
その理想の状態を実現するには、ペルソナは商品/サービスをどのように操作するのが理想なのか、その操作に対して商品/サービスはどのようなフィードバックを返すのが理想なのかを、物語の動きのなかで記述するのです。

動きのなかで記述することで、実際の操作イメージ、利用イメージを思い浮かべながら、商品やサービスのモデルを考えることが大切です。
機能は搭載されていても実際には使えない/使われない商品は世の中には少なくありませんが、それは実際にユーザーが機能を使う際の動きをイメージしないまま、メニューの設計や操作方法の設計をしてしまっているからです。

シナリオを使ったデザインの一番の利点は、実際にユーザーが商品を操作する際の動きをイメージしながら機能のデザインをすることで、使えない/使われない機能を作ってしまうという失敗がないようにすることです。シナリオのなかで、ユーザーの体験そのものを描くことで「この形ではユーザーはこの機能を使えないだろう」ということをあらかじめ理解しやすくするのです。
逆にいえば、シナリオを使ってデザインすることで、ユーザーにとって心地良い商品/サービスの利用体験をデザインすることができるのです。

シナリオを使ったデザインのフロー

さて、シナリオを使って商品/サービスの要件を抽出するための作業の流れは、下図のようになります。

  1. 調査に基づくユーザーモデルであるペルソナを作成
  2. 作成したペルソナ文書を元に ペルソナの期待をブレインストーミングにより抽出
  3. ペルソナの期待に応えるサービスイメージをシナリオで表現
  4. 作成したシナリオからサービス要件を抽出

1.のステップは前回説明したとおりです。
そのステップのなかで、現在のユーザーがどのように商品/サービスを利用して、どんなことを感じているのかを、現状の利用シナリオとして描いておくと、次以降のステップで理想のシナリオを考える際の参考になります。前回の最後に「前提条件/制約条件」をペルソナ文書には記述すると書きましたが、それを現状の利用シナリオとして記述しておくとよいでしょう。
もちろん、現状の利用シナリオは、コンテキスチュアル・インクワイアリーやその解釈であるワークモデル分析を元に描きます。

1.で作成したペルソナ文書を元に、ペルソナがどんな期待を持っているか、それを叶えるためにはどんなアイデアがあるかをブレインストーミングで議論します。
ペルソナ文書には、ペルソナの「役割」「目的」「ゴール」が描かれています。その記述をもとに、ペルソナにとって「○○(商品/サービス)とは何か?」「商品/サービスを利用する時の直接的ゴール(例えば、電子ファイルが印刷できる/東京からニューヨークまで移動できる etc.)とは別に、満たしたいと思っていること(例えば、紙づまりや用紙の補給などなく自分のデスクからすべての操作ができる/飛行機のなかや搭乗ロビーなどで快適に過ごせる etc.)」を議論するのです。そして、ペルソナの期待が明らかにできたら、その期待に応えるためには商品/サービスはどうあるべきかを考えるのです。

常に「使っているシーン」を思い浮かべながら

その議論をはじめるあたりから徐々にシナリオを考えていくとよいでしょう。ペルソナが商品/サービスを利用する際の理想のシナリオを、です。

この時点でシナリオを用いるのは、先にも書いたように、使えれば理想的だけど、使われない機能を作らずに済むようにするためです。

例えば、映画のチケットをWebで予約する際、見たい映画(作品)から先に選ぶ人もいれば、見ようと思っている映画館から先に選ぶ人もいます。
作品から選ぶ人には、作品を選んだあと、どこで見るかを選択させることになりますし、映画館を先に選ぶ人には、そのあとにどの作品を観るか(シネマコンプレックスのような複数の作品を同時上映している映画館を想定)を選択してもらいます。
ところがWebサイトが、映画作品を選ぶ→映画館を選ぶ→日時を選ぶといった1つの流れだけを想定した設計になっていると、映画館を選んだ人は、観ようと思っている映画館のページから作品を選んだあと、もう一度、どの映画館で観るかを選択しなくてはいけないことになります。これは「持ち帰りでホットコーヒーをトールで1つ」と頼んだのに「店内でお召し上がりですか?」と訊かれているようなもので、ちょっといらっとさせられるフローです。
どちらでも用は足せますが、ユーザー経験としてはどうでしょう?

ほかにも利用シーンをきちんとイメージせずにデザインしてしまったがために、使えなかったり、使いづらかったり、不快に感じてさせたりする商品/サービスになってしまうことは少なくありません。
ベッドで横になりながらメールを見ようと思ったのに、iPhoneの画面がくるくる回転してしまったことにイライラさせられたというiPhoneユーザーの方は多いのではないでしょうか。これも横になりながら利用するというシナリオが想定されていなかったがゆえではないかと思います。

シナリオを描く際の7つの着眼点

では、どのようなことをイメージしながら、シナリオを描けば良いのか?
以下は、コンテキスチュアル・インクワイアリーなどの行動観察の際に重視される「7つの着眼点」ですが、これはシナリオを描く際にもどう記述するかの参考になる視点です。

類型的行動
人が行動を行う際の1つの単位となるもの。
たとえば、通勤、料理、ミーティング、読書、情報収集、旅行の計画、etc.
また、その人自身がその行動を言葉でどう認識しているか。
行動の状況
人が行動を行う際の物理的環境や文化的背景、経済状況。
行動の直接的要因やきっかけ。
行動の主体
行動を行う主体は誰か。個人か、集団か、法人か。
どんな役割を担っているのか。
行動の対象
行動の対象となる人、あるいは物は何か。
その対象は主体にとってどんな意味を持っているのか。
手段・方法
行動の主体はどのような手段や方法を用いて、自身の行動の目的を達しようとするか。
用いられる道具、利用されるメソッド、考え方、etc.
行動の目的
行動の主体は何を目的として行動を行うのか。
具体的なゴールとして何を手に入れようとしているのか。
行動の結果
行動の結果、主体は自身の目的を達せられたかどうか。
その結果は、主体をどのような気分にさせたか。

こうした視点でペルソナの行動をイメージしながら、いくつかの利用シーンでシナリオを描きます。
そこに描かれている商品/サービスがペルソナにとっての理想の商品/サービスですから、そこに描かれた商品/サービスの機能や振る舞いは、実際の商品/サービスも満たしていることが望ましいわけです。つまり、それが商品/サービスの要件となる。このような形でシナリオを使って、商品/サービスの要件を捉えていくのがシナリオ・デザインという手法です。

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ペルソナ(ユーザーモデル)を作る

金曜日, 4月 9th, 2010

ペルソナとは、人びとの生活の現場での観察や調査会場などでのインタビューから知り得た、人びとの生活行動を元に作成する、仮想のユーザーモデルです。

人間中心のデザインではよく使われる手法のひとつであり、私も著書『ペルソナ作って、それからどうするの?』のなかで、ペルソナを用いたデザインの方法の一連の流れを消化しています。

ペルソナとしてターゲットとなる人びとの人物像を表現することで、製品やサービスのターゲットとなる人びとがどんな人で、普段の生活で何を目的としてどんな行動を行っているか、その行動によってどんな結果を期待しているのかを明確していきます。これは「ISO13407:インタラクティブシステムのための人間中心設計プロセス」で紹介したプロセスの中の「ユーザーと組織の要求事項の明示」の工程にあたります。

デザインに関わるメンバーは、ペルソナを作ることで、人びとの生活のなかでの製品/サービス利用機会やその利用目的・利用する際のゴールを明らかにすることができ、背後に隠れたターゲットのウォンツの検討が可能になります。

KJ法の結果から人物像を描くための要素を抽出

ペルソナを作成する手順は、ざっと以下のような3つのステップで行われます。

  1. ターゲットセグメントである人びとの生活行動を「コンテキスチュアル・インクワイアリー」などの手法を用いた観察&インタビューによる調査で明らかにする
  2. 調査で知り得たデータを「ワークモデル分析」や「KJ法」などの手法を用いて、分析・解釈をする
  3. 分析・解釈を経て抽出したユーザーグループの特徴、行動の傾向を元に、ユーザーモデルとしてのペルソナを表現する

1.と2.の流れに関しては、すでに「コンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問法)」や「ワークモデル分析:行動とコンテキストの関係を明示する」、「KJ法で質的データの分析を行う」といったエントリーで紹介していますので、そちらを参照いただくとして、ここでは繰り返して述べることはしません。ただし、そうした手順を踏んだ上ではじめて具体的にユーザーの傾向をモデル化するペルソナの作成に入れるのだということは、ここであらためて確認いただければと思います。

さて、前回の「KJ法で質的データの分析を行う」というエントリーでは、KJ法を行った結果として下の写真のイメージを紹介しました。
調査で知り得た人びとの行動に関するデータを類似する内容ごとにグループ化し、そのグループごとに傾向を要約した形の表札をつけて整理することで、そのユーザーグループの傾向が見えてきます。

こうして調査データをKJ法を使って分析・解釈した結果をもとに、ペルソナを描くための要素を抽出していくのです。具体的には上の写真のように、KJ法では「表札付け」という作業で、手書きで各データグループの傾向をまとめた解釈をどんどん書き込んでいきますが、それがペルソナを作成する際にユーザーグループの特徴をあらわす要素となるのです。

今回はその要素をあらためて整理するために、下の写真のようにいったんデータ化しています。

これは前回紹介したKJ法の「文章化」という作業にも相当します。図式化しただけでは見えない関係性が文章として書き直すことで見えてきたり、図で書いた関係性のおかしなところに気づいたりしますので、この工程も実は以外と大切です。

人物像を描く

ここまでがペルソナを描き始める前の準備段階です。人物像を描くための要素を抽出しておくという準備が終わったら、いよいよ具体的な人物像としてペルソナを表現していく作業をはじめます。

ペルソナを表現する作業は1人でもできますが、私はワークショップ形式でのグループワークでの作成をおすすめしています。1人で作業をするよりも、グループで作業をしたほうが視点が偏らず、かついろんな方向から人物を考えることができるという利点があるからです。

グループワークでペルソナを作成する場合はまず、下の写真のような台紙を作るといいでしょう。

あらかじめどんな情報の記述により、ペルソナの表現を行うのか、骨格となる構造だけを見出しとして抽出して表形式の台紙を作っておくのです。どんな見出しが必要かは、すでにKJ法でユーザーグループの行動全体の構造が見えているはずですので、そこから抜き出せます。

こうした準備をした上で、具体的な人物像のイメージをグループで議論しながら決めていくのです。3-5人のグループで、ひとりが司会者、ひとりが書記となって、必要な項目を埋めていきます。

そんな議論を経て完成したペルソナは、こんな感じでデータ化するとよいでしょう。

ペルソナの役割/目的/ゴールを明らかにする

ペルソナに記述するべき内容に決まりはありませんが、以下のような事柄はぜひ記述に含めたいところです。

  • 役割:ペルソナが製品/サービスを利用する時、利用しようと考える時、ペルソナにはそうしなければいけないどんな理由があるのか、役割があるのか?
    cf. 「小学生になる前の小さな子供に毎日、朝昼晩の三食のご飯を作って食べさせてあげなくてはならない」、「毎日の家から会社までの45分間の通勤時間の空いている時間に、自分自身を退屈させず、かつ時間を有効に過ごせる手段を与えなくてはいけない」など
  • 目的:ペルソナは何のために製品/サービスを利用した行動をするのか?
    cf. 「朝は保育園に行く時間までに食べさせなくてはいけないし、夜もお腹が空いたとうるさいので、毎日決まった時間に食事を作り終える必要がある」、「会社で仕事中はプライベイトなことでインターネットは見れないし夜もなかなか時間がとれないので、通勤中にできるだけプライベイトな情報収集をしておく必要がある」など
  • ゴール:ペルソナは製品/サービスを使うことで具体的にどんな結果を得たいのか?また結果を得るプロセスで期待するもの/忌避したいものは何か?
    cf. 「とにかく時間通りに子供が食べてくれる料理を用意する。自分も仕事から帰ってきて疲れていることもあるのでできるだけ手間がかからないよう簡単に」、「毎日チェックしているWebサイトがいくつかあるので、通勤時間中にそのチェックを効率的にし終えたい」など
  • 利用時の前提条件/制約条件:ペルソナが自身の役割に応じた目的で、製品やサービスを利用してゴールにたどり着こうとする際、どんな環境要因やペルソナ自身の内定条件が前提条件や制約条件となりうるか?
    cf. 「下の子が小さくて、時々、部屋の中のものを壊したりすることがあるので料理中も目が離せない」、「電車のなかは超満員ほどではないが混んでいるので片手ですべての操作をしたい、手が小さいのでなるべく小さく軽い方がいい」など

ペルソナはもともと、インタラクションデザイナーであるアラン・クーパーが提唱している人間中心のデザインの1つの手法であるゴールダイレクテッドデザインのなかで用いられる手法です。
ゴールダイレクテッドデザインは、その名の通り、ユーザーをゴールにダイレクトに(使い方がわからず迷ったり、求める結果と違う結果が得られたり、動きがもたもたしていて苛々させられたり、といったことがなく)導くためのデザインをすることを目指すデザイン・アプローチです。

ですので、上に挙げたリストの中でも、何がペルソナにとってのゴールなのかを明らかにすることが最も重要になります。また、ペルソナにとってのゴールは、その人がどんな役割があると自分で認識しているか、その役割の目的は何かということにも関係しています。目的があって、その具体的な達成を示すものがゴールです。そして、ペルソナを取り巻くさまざまな環境要因、ペルソナ自身の知識や経済的制約がペルソナがゴールに至る道程を妨げることもありますので、製品/サービスのデザインを考える際にもそうした点を考慮する必要があるでしょう。

このようにペルソナの記述を考える時には、その製品/サービスはユーザーにとって何であり、それを使うユーザーはどんな役割をもった人なのかということと同時に、ユーザーは具体的にどんなゴールにたどり着きたいのかを明らかにすることが必要です。
それがペルソナで表現すべき事柄であり、それが明らかになることで、ペルソナが何を欲しているか(ウォンツ)を考えることができるようになるのです。

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KJ法で質的データの分析を行う

金曜日, 4月 2nd, 2010

人間中心のデザインでは、コンテキスチュアル・インクワイアリーのような観察&インタビューを行い、人びとの生活のなかの行動の把握を行います。生の現場で、人びとの行動を観察することで、その行動が行われる外的環境や内的動機がどのように行動に影響を与えているのかを把握するのです。その行動と環境の関係性のなかに、人びとの行動を非効率なものにしていたり、あまり快適ではない体験を与えているものがないかを見つけることで、人びとの生活や体験をよりよいものにするために必要なイノベーションの鍵を得るのです。

ところが、この観察&インタビューによって得られた、質的データというのは、アンケート調査などによって得られた定量データとは違って、コンピュータを使った集計や分析をすることができません。数としてボリューム(量)として扱えるものでないため、基本的には人間が読み解く必要があります。たとえば、90分のインタビューを10名に対して行ったとしたら、そこで得られたデータは結構な量ともなり、単純に発言録を読むだけでも時間がかかります。

また、おなじ質的データでも、構造化インタビューによって得られた定性的なデータと異なり、性質さえ不定なデータであるため、調査で用いた構造をフレームワークとして用いて調査対象者間の比較ができるとも限りません(注:コンテキスチュアル・インクワイアリーなどの観察調査も定性調査と呼ぶこともありますが、厳密には、非構造化インタビューが基本ですので、定性的な調査ではありません)。

それゆえ、観察&インタビューで得られた質的データの分析には、手間も必要ですし、分析のための方法、その方法を有効に活用するためのスキルも必要です。
先に紹介したワークモデル分析がその分析手法の1つですし、今回紹介するKJ法もまた質的データの分析法として知られているものです。

KJ法

KJ法は、文化人類学者である故・川喜田二郎氏が生み出した発想法のなかでも用いる思考ツールの1つです。

文化人類学でもフィールドワークによる調査を通じて膨大な質的情報の収集が行われます。とうぜん、そうした調査から得られたデータから、調査対象の民族の生活文化の特徴やそのコミュニティでの問題点などをいかに浮かび上がらせるかが、研究者にとっての課題でした。

そうした課題を解決する方法として、川喜田二郎氏が生み出したのがKJ法です。

KJ法は、質的データをアブダクションと呼ばれる推論形式を用いながら、データの全体像/構造を把握するのが目的です。
推論形式としては、一般に演繹と帰納の2つが知られていますが、アブダクションはそれに続く第3の推論形式です。帰納が観察データに基づき一般化を行う推論形式であるのに対して、アブダクションは観察データを説明するための仮説を形成する推論形式です。
よくKJ法と称して、単純に情報の整理・分類の作業だけを行っているケースがよく見られますが、本来のKJ法は膨大な質的データをアブダクションを働かせながら、データ(つまり調査対象となった人びとの生活行動)の全体を説明しうる仮説を生みだすための手法です。

KJ法の作業は以下のような流れで行います。

  • 単位化
  • グループ化
  • 表札付け
  • 図式化
  • 文章化

図にすると、こんな感じになります。

実際に、KJ法を行った作業風景をお見せしながら、この作業の流れを簡単に追ってみることにします。

情報の単位化

まず単位化は、調査データをまとめた発言録や映像情報から、行動の要素や行動が行われた環境を示した記述を、小さな情報の単位として切り出す作業です。

今回は、下の写真のような感じで、パソコンを使ったコピペ&文章表現の見直しを行ったデータを、裏がポストイット状になった紙に出力して、切ったものを、単位化した情報として使っています。
誰か1人がまとめて情報の単位化をするような場合は、こういう方法のほうが効率的です。

もちろん、この情報の単位化は、ポストイットに手書きで抽出する形でもかまいません。
ポストイットに手書きした方が文字が読みやすかったり、書いている際に情報が頭にはいるという利点もあります。

情報のグループ化〜表札付け〜図式化

この単位化した情報をそれぞれ見比べながら、類似する情報同士をまとめるのが、グループ化の作業です。
このとき、似ているもの同士を小さなグループとして集めることをせずに、はじめから大きなカテゴリーに分けようとしてしまったり、人びとの行動のパターンの類似ではなく、書かれた言葉の類似で分類してしまったりという間違いを犯しがちですが、それをしてしまうと、KJ法はうまくいきません。

グループ化するというのは、まさに小さなアブダクションを働かせる推論にほかなりません。アブダクションは説明を生みだす推論ですから、説明仮説も考えることなくグループを作っても仕方ありません。

そして、その説明仮説を言葉にするのが、表札付けにほかなりません。複数のデータを集めたら、なぜ、それらの情報を集めたのかを示した要約が表札に書かれている必要があるのです。
グループ内の情報を要約した文章ではなくカテゴリー名のような単語で表札をつけてしまったり、作ったグループに含まれるデータに書かれた具体的な要素を含んだ表札をつけなかったりするのは、間違った表札付けです。

途中経過の写真を見てみましょう。すこしずつグループ化と表札付けが進んでいます。
今回は、図式化の部分も平行して進めました。図式化もまたデータ間の関係性を説明する仮説の表現です。

さらに進んだ段階。

はじめはバラバラだったデータも、グループ化、表札付け、図式化で、きちんと小さな説明仮説を作りながら進めていくと、徐々に全体的な関係性も見えてきます。ここまでくると、なんとかまとまりそうだな、と、すこし気が楽になってきます。

KJ法からペルソナへ

完成形の全体像はこう。
無理矢理、1枚の模造紙に詰め込んでしまったので、図式化による関係性の表現がわかりにくくなってしまったところが失敗。でも、説明仮説自体ははっきりできたので、目的はぎりぎり達したか、と。

角度を変えて、すこし近寄ってみると、こんな感じです。

見えづらいですが、ここで手書きで書き込んでいるデータの解釈が、このユーザーグループのペルソナの特徴として採用されるわけです。

ですから、この時点の解釈の表現には、このユーザーグループの特徴を明確に示した具体的な言葉が盛り込まれている必要があるわけです。そうでないと、この解釈を抽出して並べた状態で読んでみた際に、まったく人物像が浮かび上がってこないということになってしまいます。
とうぜん、それではターゲットユーザーのモデルとしてのペルソナの役目を果たしませんよね?

というわけで、このKJ法によるユーザーグループの特徴の解釈、分析という作業が、人間中心のデザインの1つ目の山場ということになります。

次回は、この結果をいかにペルソナに変換するかを、紹介してみることにします。

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二次的理解:体験を拡張する

火曜日, 3月 30th, 2010

前々回のエントリー「ISO13407:インタラクティブシステムのための人間中心設計プロセス」でもISO13407に代表される機能主義的な側面の強い人間中心設計を批判し、より広範囲な視点で人間にとっての意味=価値にポイントをおいた人間中心のデザインを提唱している、クラウス・クリッペンドルフは『意味論的転回―デザインの新しい基礎理論』のなかで、

人間中心のデザインは、基本的には、他の人のためのデザインであるため、それは二次的理解に基礎づけられるべきである。

と言っています。
また「誰か他の人の理解を理解することは、理解の理解」であるといい、それを「二次的理解」という用語で表現しています。

クリッペンドルフは、人間中心のデザインに関わるデザイナーには、「誰か他の人の理解を理解する」という二次的理解が必要だというのです。

なぜ二次的理解が必要なのか?

クリッペンドルフはまた、

二次的理解は、ポスト工業時代のデザインの必要条件である。

とも言っています。

それまで社会的に満たされていなかった機能を技術中心のイノベーションにより生みだす工業時代のデザインであれば、デザイナーは自身の不足や不満をベースに思考することで、機能性=意味合いを形に落とし込むことができました。

自分自身の使う物がどうあって欲しいか、自分自身の生活に関わる物にどんな不満があるかをつかむのは、そうしたことを普段から意識して過ごしているのであれば、それほどむずかしくはありません。
デザイナーあるいは商品の企画者は、自身の人生の体験を振り返ってみることで、何が求められるかを捉えることができ、それを具体的な商品へと落とし込むことができました。

ところが、技術中心のイノベーションだけでは、生活に革新をもたらすアイデアの創出がむずかしくなったポスト工業時代の現代においては、観察やインタビューなどの手法を用いて、人びとの生活行動やその環境そのもののなかに、未来を切り開くイノベーションの種を探る必要がある。

物をデザインするのか? 体験をデザインするのか? です。
体験をデザインするためには、ターゲットとなる人びとの体験に着目しないといけない。

つまり、それはクリッペンドルフがいうデザイナーによる他者の理解=二次的理解が必要であるということであり、デザイナーは自身の体験だけに頼っていてはダメで、他者である他の人びとの生活体験を積極的に理解しなくてはいけないということです。

顧客/ユーザーの立場に立つ

よく「顧客/ユーザーの立場に立って考える」と言いますが、ほとんどの場合、他人の言動を客観的にみるだけで、結局は自分の経験から生まれたフレームワークに当てはめて、他人の言動を判断してしまうことが多いと思います。それはクリッペンドルフのいう二次的理解とは似て非なるもので、それでは人間中心のデザインの役には立ちません。

人間中心のデザインの基礎として必要される二次的理解は、まさに顧客/ユーザーの建っている場所に自分が立ってみるということです。それには顧客/ユーザーが結果としてみせた言動だけを見たのではだめで、顧客/ユーザーをそうした言動に至らせた行動の背景としての立場・環境そのものを理解する必要があります。

行動の背景を見ずに、単に行動だけを客観的に見てしまうと正しい理解ができない場合が多いのです。

行動だけでなく、行動の背景を知る

例えば、普段接点のないおなじ会社のある社員が、まわりはみんな忙しくしているのに、自分だけいつも定時をすぎるとそそくさと帰ってしまうのが気になっていたとしましょう。日中もやたらとプライベイトの携帯電話が鳴って、外に電話しにいったりする。なんの背景情報もない状態なら、仕事に対する態度としてどうなんだろう?と疑念を抱くかもしれません。

ところが、ほかの同僚によく話を聞いてみると、その人のお母さんが重い病気だという。ほかに世話をする人がいなくて、毎日お母さんの世話をするために早く帰っているのであるとしたらどうでしょう? 途端にその人に対する印象が一変するのではないでしょうか。

そうした背景を知ることでようやく「相手の立場に立つ」ことがすこしできたわけです。
自分の母親が病気だったらどうだろうか、と自分でも相手と同じ状況に立ったところを想像できるようになってはじめて、相手の理解を理解するという二次的理解ができる地点に立てる。人間中心のデザインに求められる二次的理解は、そのように単に顧客/ユーザーの言動を知るだけでなく、何が顧客/ユーザーにそのような言動に向かわせるのか、その背景にある因果関係や状況を知ることなのです。

自身の体験を拡張する

人間中心のデザインをする人も、顧客/ユーザーの言動そのものを直接変化させることはできません。ただ、顧客/ユーザーの言動の原因となっている環境を変えることはできるかもしれない。顧客/ユーザーにとって生活の障害となっている問題を、人びとが暮らす環境の側に見つけ出すことから、人間中心のイノベーションのデザインははじまります。

ですので、コンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問法)などの行動観察調査を行った場合も、単に調査をして、客観的に生活者の行動を把握しただけでは意味がないのです。
ワークモデル分析やKJ法を用いて、質的データの解釈、分析を行うのは、あらためて生活者の行動とその行動が行われた背景の関係性を捉えなおすことが必要だからです。

その目的はひとことでいえば、自分自身の体験を拡張することです。

観察調査データの解釈、分析によって見えてきた、生活者の行動の場に自分自身を置いてみることで、自分ならその場でどのような体験をし、どのような感情が起こるかを想像するのです。

主観的に見る

そのために用いるのがワークモデル分析KJ法といった分析手法であり、それゆえ、それらの手法使った解釈、分析作業というのは、実は客観的な視点で見る以上に、自分自身が体験するように主観的に見ることが求められます。

主観的に見ることが求められるがゆえに、その作業は誰かに結果だけを教えてもらうということはできません。
自分の体験は誰かにもらうことができないように、自分の体験を拡張するという二次的理解への道もやはり、自分自身でデータの解釈、分析作業のなかで切り開いていくしかないのです。
正直、誰にでもできることではないですし、誰がやってもそれなりに時間がかかります。体験に関わることなので時間を惜しめばそれは別の体験になってしまう可能性があるから、安易な効率化は間違いの元でもあります。

体験を重視し、他者の体験の理解に近づくために自らの体験を拡張する。
それが人間中心のデザインで求められる本来の調査データの分析法なのです。

最後にもう1つ、クリッペンドルフの言葉を。

他人の意見を聞くことなしに自分で行う孤高の才能あるデザイナーは急速に過去の人となりつつある。

人間中心のデザインを使った商品・サービス開発については気軽にご相談を。お問い合わせはこちらです。

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人間中心設計プロセスの各段階で用いる主な手法

金曜日, 3月 26th, 2010

さて、前回の「ISO13407:インタラクティブシステムのための人間中心設計プロセス」では、あらためてユーザビリティ(使える/使いにくくない)の高い製品/システムをデザインするために用いられる標準的なデザインプロセスとしての人間中心設計プロセスについて紹介しました。

そのデザインプロセスは、次の5つの段階からなっています。

  • 人間中心設計の 必要性の特定
  • 利用の状況の 把握と明示
  • ユーザーと組織の要求事項の明示
  • 設計による 解決案の作成
  • 要求事項に対する設計の評価

この各段階のそれぞれの目的と、その目的を達成するために用いる手法をまとめると、次の図のようになります。

人間中心設計の手法の応用

前回も紹介したとおり、このデザインプロセスはもともと、コンピュータが内蔵された製品/システムのユーザビリティの向上のためにまとめられたものですが、今ではそれ以外の分野の製品/サービスのデザインにも応用されています。

ターゲットユーザーをモデル化する手法であるペルソナは、さまざまな分野の商品開発のための企画やマーケティングコミュニケーションの企画のためのターゲットとなる人びとの生活行動や価値観を明示するための手法として活用されています。

また、アメリカ・パロアルトの拠点を置く世界的に有名なデザインコンサルティングファームIDEOでは、エスノグラフィのような行動観察やストーリーボード、プロトタイピングなどの人間中心設計の手法を用いて、数々のイノベーティブな商品/サービスを生みだしています。

まずは標準的なプロセスを体験することから

これらの手法の1つ1つは必ずしも目新しい手法ではありませんが、与えられた課題に対して適切な手法を組み合わせてデザインプロセスを設計することで、なんとなく個々人の勘や経験値、あるいは数値的データだけを元にした分析では得られない新しい発想やそれを実現するための具体的なアイデアを創出することができます。

どういう課題にどのように手法を組み合わせるのが適切かは、経験に依るところも大きいので、単純に上の図の標準的なプロセスに従えばよいというわけではありません。しかし、標準を知ることでこそ、応用もできるようになるというものです。

自社製品やサービスの開発プロセスに、人間中心設計の導入を検討されている方は一度はぜひ標準的なプロセスを体験してみることをおすすめします。擬似的な体験という形では、弊社でも「人間中心のデザイン体験ワークショップ」を用意しておりますので、ぜひご活用ください。

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