アメリカではiPadが発売されて話題になっていますが、それも含めてユーザーインターフェイス(以下、UI)が多様化する勢いが増してきているという印象です。そうした流れの中、UIとそれを用いる際の身体姿勢との関係について考えていく必要も増えているのではないかと思っています。
ここで言っているUIは、単にGUIの画面のなかの話ではなく、 これまでの一般的なPCのGUIであればディスプレイ+キーボード+マウスが一体となったハードウェアも含めたものを指しますし、iPhone、iPadであればタッチ操作が可能なハードウェアを含めた、ユーザーとコンピューターのインターフェイス全体を指します。
著名なインタラクションデザイナーであるアラン・クーパーは著書『About Face 3 インタラクションデザインの極意』
のなかで、
システムのハードウェア要素とソフトウェア要素(およびそれらの間のインタラクション)を同時にデザインすることが大切だ。そして、そのときにゴールダイレクテッド、人間工学の観点と美的観点を忘れてはならない。
アラン・クーパー『About Face 3』
と書いていますが、まさにハードウェアとソフトウェアとを統合した形でユーザーエクスペリエンスをデザインする必要性が、UIの可能性が技術的に多様になった今だからこそますます重要になってきています。
そのUIを考える際に、クーパーがいうように「人間工学の観点と美的観点」を忘れないためにも、それを用いる際のユーザーの身体姿勢をあらためて考慮に入れて設計したほうがよいと感じています。
身体姿勢と利用のオケージョン
身体姿勢は、まず大きくは、立った状態、座った状態、寝ている状態と分けることができます。
しかし、さらに詳細に分ければ、
- 立った状態
- 静止している、歩いている、混雑した場所で立っている、など
- 座った状態
- デスクに向かって椅子に座っている、ローテーブルを前にソファーに座っている、公園などの屋外のベンチに座っている、床に座っている、ベッドの上に脚を伸ばして座っている、など
- 寝ている状態
- 仰向けに寝ている、うつぶせで寝ている、身体を横にして寝ながら時々方向を変える、など
といった様々な状態をイメージすることができます。
そして、これらの身体姿勢は、それぞれ会社で仕事をしているとか、移動中に歩いているとか電車に乗っているとか、交差点で信号待ちをしているとか、家や飲食店で食事をしているとか、家でぼーっとくつろいでいるとか、寝る前の時間をベッドの上で過ごしているとか、様々なオケージョンに紐づいています。
利用のオケージョンとUIのデザイン
こうした身体姿勢が多様化してきたUIのデザインと深い関係にあると思うのです。
例えば、コンピュータといえばデスクトップが主流であった頃であれば、文字通り、その利用にはデスクが必要でした。一般的なオフィスでの利用のように、椅子に座った状態でちょうどよい高さのデスクの上で使うというのが利用時の基本となる身体姿勢だったはずです。
家庭で床座で使うような場合でも、床に座った状態の高さでちょうどよいテーブルが利用の必須条件だったでしょう。
それがノートパソコンが主流になってくると、パソコンはデスクの上やテーブルの上に必ずしも固定しておく必要はなくなりました。
床にうつぶせで寝転がった状態で使うこともできますし、ソファーに深く腰掛けた状態で脚の上にのせて使うこともできます(長時間使っていると脚が熱くなりますが)。
その場合でもGUIのデザインから来る制約から、適切な画面との距離、適切なキーボードやマウス(またはタッチパッドなど)が決まったはずです。持ち運びが可能になったとはいえ、デスクやテーブルとは限らないまでも、床や脚の上などを含め、利用するための置き場所は必須でした。
日本人の生活スタイルにおける身体姿勢
携帯電話というUIは、そうした置き場所に縛られた利用の制約を取り除き、立った状態でも利用ができるよう、利用可能な身体姿勢とオケージョンの幅を広げました。
歩きながらでも使えますし、混雑した電車のなかで片手でメールをすることもできる。先に列挙したほとんどの身体姿勢で利用できるのが従来の携帯電話のUIだったのではないかと思います。
特に、椅子の生活の割合が増えたとはいえ、まだまだ床座や床やベッドに寝転がった状態でリラックスをする日本人の生活に、その片手におさまり天地や縦横がどのような状態でも使えるUIは、非常にマッチしていたのではないかと思います。
ところがiPhoneが登場して、利用可能な身体姿勢のバリエーションという点では、すこし後戻りがみられました。よく言われるように、文字入力が片手で行いにくいことや、寝転んだ状態の天地や縦横が決まらない状態での操作がむずかしいことなど、携帯電話のUIで可能だったことができなくなってしまいました。
iPadはどうでしょう? まだどういう問題が実際に出てくるかはわかりませんが、例えば、先のノートパソコンの例にあった脚の上にのせて操作するということはできなくなるのではないでしょうか。キーボード付きのドックが用意されていますが、脚の上にのせて安定するかは疑問です。
うつぶせの状態でもどうなのでしょうか。キーボード付きのドックなしの状態で使う場合は常に手で支えている必要があるでしょうから、長時間の利用にも向いていないのは確かでしょう。
いまだに床座や、床やベッドに寝転がった姿勢で過ごすことの多い日本人のライフスタイルを考えると、必ずしも適切なUIデザインではないかもしれません。
操作という小さな作業をするときの身体姿勢とデザイン
こんなことを書くのは別にiPhoneやiPadの問題を指摘したいからではありません。操作をする際の身体姿勢とUIのデザインの関係について示してみたかったからです。
ごく小さな動作だとはいえ、機器を操作するというのもやはり作業です。作業と身体姿勢の関係はデザインを考える上では切っても切れない深いつながりがあることにもう一度焦点を当ててみたかったからです。
いわゆるGUIの話とは別ですが、食事をする際のインターフェイスである、食器や箸、フォーク&ナイフ、テーブルや椅子の高さなどの組み合わせも、それぞれの国の文化における身体姿勢によって異なるということを考えてみてもおもしろいでしょう。
西洋ではフォークとナイフで食事をするために食器を手で持ち上げることはありませんが、箸を使う日本では食器を手にもって食べます。手に持ちやすいよう、茶碗や汁器などは手のひらになじむ丸みを帯びた形、大きさになっている。同じ箸を使う東洋のなかでも、テーブルに肘をついて食べる中国と、肘をつかない日本では、テーブルの卓面と椅子の座面の高さの関係が異なります。同じ日本でも立ち食い蕎麦屋などで立って食べるときはある程度テーブルの高さがあったほうが食べやすい。
食事をするという行為における身体姿勢と、その行為を可能にするインターフェイス=道具のデザインもこのように密接に結びついています。
日本のライフスタイルに合ったUIのデザイン
今後、ますますUIデザインの自由度が増える状況では、同じように、こうした人間の身体姿勢とその姿勢をとる際のオケージョン、心理状態をきちんと考慮した上で、デザインする必要が増してくるのではないかと思います。
このあたりを考えていく上で前回「シナリオを使ったデザイン」で紹介したような、ユーザーの利用シーンをどんな環境でどのような操作を行うかも具体的にイメージしながらデザインする手法が有効になるでしょう。
特にいまだ西洋とは異なるライフスタイルをもつ日本文化に合ったUIデザインの提案というのは、日本のなかでこそ生まれてこないといけないのではないかと思います。
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